気になる車椅子パート4

      高価な車椅子特集・その2

今回は前回の続きになります。。。
高価な車椅子(パンテーラ)をご好意でお借りできたので、勝手に研究・分析を行いました。
今回は、当施設でも一番新しい松永製車椅子と比較したいと思います。
・・・とは言っても、価格で10倍以上差があるので、軽トラと高級外車を比較している
ようなものかも知れませんが・・・(;^_^A




↑左手前が当施設で最近やっと買ってもらった車椅子(指に血豆をつくったタイプ)です。
右奥にあるのがデモでお借りしたパンテーラ製の車椅子(U2というタイプ)。


では、比較してみましょう!!

自動車とかオートバイ雑誌じゃ、よくこのような特集やっていますが、
車椅子でやるのは、かなり珍しい稀なことだと思います。

今回、行うのは「乗りごこち」ではなく、「動かしやすさ」です。

    直進時にどれだけ転がるか?
    方向転換時の抵抗はどうか?

この2点だけ簡単にチェックしました(そんなに時間的余裕もないので・・・)。

「どれだけ転がるか?」は、施設内の軽い傾斜(2〜3度)を利用して行いました。



↑フラットな床から斜面1mの位置にマーキングして、そこにキャスターを合わせ惰性で転がします。




↑これが、転がした後の画像です。降車後ですが、明らかに転がり方が違います。

結果は、「松永・・・4.6m」「パンテーラ・・・6.9m」。う〜ん・・・ここまで違うんですね〜。
2mの位置からだと、「松永・・・11.7m」「パンテーラ・・・14.3m」という結果になりました。
ちなみに、空気圧は両車共約4キロでした。デモ車はお借りした時点でこの圧力でしたが、
本来もっと空気を入れられるはずです。松永のは既に空気圧は目一杯なので、
パンテーラに空気圧が7〜8キロ入っていたらもっと差が出ていたでしょう。。
重心とフレーム硬性以上に、極細タイヤと日本製の高級ベアリングが貢献していると考えます。
(キャスターの構造そのものにも、転がりの秘密があるようです。この後、わかります。)

つぎにキャスター方向転換時の抵抗を見てみます。
制止位置からの方向転換は何故かパンテーラ製の方が抵抗感(くっつき感)があります。
おそらく、キャスターゴムの接地面積(横幅)が広いという、構造上のものでしょう。
●キャスター角の特性か?と思い角度を測ってみましたが、それらしい角度は認めません・・・
(それとも、わからない程度に微妙な角度がついているのでしょうか???)


------------------------------------------------------------------------------
キャスター角とは?・・・キャスターの旋回軸のことです(旋回軸のベアリング整備はこちら)。
アメリカンタイプのオートバイを想像してもらうと良いのですが、前輪フォークの角度傾斜・・・、
あれは走行時の直進安定性を求めた結果なのです。しかし、低速時にはステアリング動作が
重くなるというデメリットも発生します。。
------------------------------------------------------------------------------


本来、向きを変えるときの重さはバネばかり等を利用すべきでしょうが、手元にありませんので、
とりあえず・・・濡らした手拭き用の紙を床に敷いて比べてみました。




↑この状態で制止して、ゆっくりと外側に方向を変えます。。。すると・・・?




↑このように紙に歪みが生じます。これが床とキャスターとが抵抗しあった跡というわけです。。




↑向かって左が松永のキャスターを外側に方向転換したものです。
紙の歪み具合が全然違いますね。これが方向転換時の抵抗感の違いと考えます。

でも、更に注目すべきはその後の走行跡、「転がり軌線」です。
左の松永は一本の太い線ですが、右のパンテーラは細い2本の平行線が残っています。
方向転換時にはゴムの抵抗が強くても、転がり始めると右の方が抵抗が少ないと推察できます。
転がりの良さはキャスター自体の構造にも秘密があったわけですね〜。
●どこかで、これと同じ様なものを見たような気が・・・・・と、ずぅ〜っと考えていたんですが、
カタマラン・ヨット(双胴船)を思い出しました。直進安定性等で共通性が有るような気がします。


個々のパーツを分析します

個人的にパーツ(部品)には非常に興味があるので、
高級車のパーツとはどのようなものか、もうちょっと調べてみます。
まずは、当ホームページでも虫ゴムに次いで力を入れているキャスターからです。



↑実際のパンテーラのキャスター構造(2本線の走行跡のカラクリ)です。
上が表面を覆っているゴム、下(中心)は強化プラスチックでできているようです。
●ゴムを外した時にかなり大量のゴムカス(消しゴムを使ったあとのカス様のもの)が出ました。
ゴムが柔かいからなのか・・・、材質のせいなのか・・・意外に消耗しやすいのかもしれません。




↑バラすとこのようになります。案の定、髪の毛・ホコリを巻き込んでいました(右下)。
意外に細かいパーツが多く、紛失すると大変です。
外すのは良いのですが、はめるときに小さな内側リングを装着するのが手間です。
慣れないと、落としてしまって紛失しかねません。
今まで多くのキャスターを整備してきましたが、一番面倒だと感じました。
●それにしても、このキャスター本体の穴の開き方は…昔の「ミニ四駆」を思い出します。。。
「ミニ四駆」もこのような穴を随所に開けて軽量化を図っていたんですよね〜・・・。
あと、こんな感じの丸いパーツが、コースを走る為のガイドとして四隅についていました。




↑キャスター・ベアリングの拡大画像です。しっかりしていて作りが全然違うような・・・
国産メーカーにはこの位、しっかりしたベアリングを採用してもらいたいものです。
だって・・・このパーツは「日本製」なんですよ!
何度も特集していますが、ここが一番ストレスを受ける場所なのですから!!
●ただ、このタイプの丈夫なベアリングも時として傷む場合があります。近く特集する予定です。


次に、シート部分です・・・ここはシーティングなどと言って、体(骨盤)をしっかり保持することで、
長時間楽に座れて積極的な日常生活を送ることができるという・・・一番の「売り」の部分です。
最近では、虫ゴムの存在すら知らないのに「シーティング」「シーティング」といってる方々も
いるみたいですが、それにも困ったものです。。まずは命を守る「ムッシーティング」からでしょう。




↑座面シートと背もたれシートの間に調整機構があります。ここの張りを調整することで
臀部(坐骨)の部分を沈み込ませて、ズレないように安定させているというわけです。
お尻を埋め込んで、骨盤を固定するという理屈です。アンカーサポートと言います。
始めて座って調整してもらうと、お尻がはみ出てるんじゃないの?という感覚になります。
●こういったお尻を収める袋状のものは、一般の普通車椅子には作りづらい構造です・・・。




↑背もたれのシート角度を調整します。
左右のネジを回して調整するため、微妙なセッティングが可能です。
脊柱や股関節に可動制限のある方、腹部圧迫が気になる方など、様々な身体状況に合わせられます。




↑車椅子を後方下から撮影した画像です。調整用のベルトが随所についています。
大腿部の下(お尻の前)のベルトはシッカリと張り、背もたれ部分は体が自然に起きるように
背骨に合わせて張りを下から締めていきます(下部ベルトはきつめ、上部はゆるめの傾向)。
●ここら辺も、普通車椅子とは違います。普通車椅子は背もたれ上部の張りがきついために、
体を起こした時に逃げ場所がなく、お尻が前にズレてしまうことも多いのです。。




↑車椅子座面の上にはマジックテープのオスが縫い付けてあります。
その上のクッションにはメスはついていません。
表面の生地の目の特長を利用して、後方にはズレても前方にはズレないようになっています。
生地は洋服のホコリ取りでよく使う、「逆目生地」を想像してもらえばよいかと思います。
これだと、収納する際に「ベリベリ〜」と無理に剥がさずに、「パッ」と簡単に取ることができます。
●一見、大したこと無さそうですがすごいです。メーカーの細部に対する「こだわり」を感じます。


ブレーキ部分も紹介しましょう・・・


  

↑このクイックブレーキと呼ばれるブレーキは走行時は左のように収納されています。
ブレーキをかけたい時に中から引き出して右のようにロックする・・・という仕組みです。
一箇所で左右両方、同時にブレーキがかかります。
●確かにすごいのですが、空気圧に頼る制動であることと、プラスチックが使われていることも
あって、利用者にある程度の理解力がないと壊してしまう可能性も考えられます。
(ハイブレーキといって、比較的高い位置で左右別々に押して止めるタイプもあるようです。)


肘掛けについて・・・




↑分解収納しやすいように、肘掛けは簡単に抜くことができるようになっています。
(肘掛けを外さないと、背もたれを前に畳むことはできません。)
●簡単に外れやすいのが気になりますが、特筆すべきはこの一枚がなんと250gという軽量さです。



【まとめ】
ここまで、勝手に調べた中で感じたのは、
このタイプの車椅子は「乗り手を選ぶ」のではないか?
・・・ということです。
どちらかというと、「スポーティ仕様車椅子」という感は否めません。
@骨盤をしっかりサポートして、長時間の座位が無理なくとれる。
A大車輪はある程度のスピードが乗っても旋回しやすいように、「ハの字」になっている。
B工程を覚えて、ある程度の上肢筋力と巧緻性があれば、自分で分解・調整ができる。
C高硬性で軽量な特殊フレームは、歪みやショックに十分耐えられる構造である。
・・・これらの特長って、乗用車なら十分にスポーツカー的な要素だと思います。

「体幹がしっかりしていて、上肢の筋力もある程度残存し、知的能力が比較的保たれている」
という条件が整い、活動的な方にとっては大変よい素晴らしい車椅子だと思います。
ただ・・・制止位置からの方向転換に、力が余分に必要なこと1つを例にしても、
片麻痺の方の駆動や、力のない高齢者が屋内で使用する場合はやや苦労しそうです。
肘掛けも軽くて抜けやすいのも良いですが、引っ張り癖のある方には危険かもしれません。
車体硬性も一体構造で丈夫なのは良いですが、やはり収納という面で介護者をメインに
考えるとどうかと考えます。パンフレットには「わずか5ステップで25秒でOK」とありますが、
通常の折り畳み車椅子なら、仮に背折れ式であったとしても「2ステップで2秒でOK」です。

最後に反射テープの件ですが、このデモ車はきちんと反射するものはありませんでした。
反射するものがあるかどうかの判断は簡単です。
やや暗い場所に置いて、遠くからフラッシュ撮影すれば良いのです。



↑左上で楕円状に反射しているのは靴の踵についている反射テープです。
車椅子で反射しているのは金属部分と銀色シールで夕暮れ時や夜間時には効果はありません。
本当の反射式テープは視認性・輝きが違います。アクティブに光る物なら尚更良いと思います。


【おわりに・・・】
この2回にわたる特集を組むにあたってご支援・ご協力いただいた
「パンテーラ・ジャパン 代表取締役で車椅子姿勢保持協会会長の光野有次さん」
「ノーマデザイン研究所 代表取締役の野間治樹さん」に感謝いたします。
               m(_ _)m 有難うございました!

パンテーラ車椅子への興味をわかせていただいた「ひろ.A」さんにも感謝いたします。。。


追記1…やはり、良い車椅子をみると通常の車椅子への考え方(基準)が変わるきっかけに
なります。できれば学生のうちに、各種調整機構のある車椅子をあれこれ体感して臨床に
出てきてほしいと思います。学校もこのくらい備品として入れて欲しいものです。(無理なら
メーカーにデモ車を持ってきて来てもらえば良いだけの話です。)整備指導も忘れずに!!


追記2…通所利用者が気になる車椅子に乗っていました。明らかにパンテーラのキャスター
を使っている車椅子なんです。肘掛けが「すぽん」と抜ける構造といい、よく似ています。
でも、特別なシート調整機構のついていない普通の折り畳みタイプです(異様にフレームが太い
のが目立ちます)。隅々までよ〜く観察すると、「etac」と書いたシールが貼ってありました。
ネットで調べたら「スェーデン製」と出ていたので多分・・・パンテーラ関係の車椅子でしょう。
その方は身長が185cm、体重96kgという大柄な方で、とにかく丈夫なのを・・・とリース業者
に注文して取り寄せたそうです。1ヵ月2千円自己負担で払っているそうなので、実際には
1ヵ月2万円かかっていることになります。業者にとっては2年もあれば十分ペイしますねぇ〜。
その方は歩行能力が十分備わったのに、未だに恐いから楽だから・・・と使い続けています。

(これって介護保険の無駄使い・・・のような、、、( ̄w ̄;) 説得中ですがなかなか頑固で・・・)

   ETAC AB(?)

↑フットレストがバネで簡単に持ち上げたり、下げたりできるようになっていました。
スイングアウトもできますし、大車輪はノーパンクのソリッド式です。「ハの字」でもありません。

クッションは普通の薄手の座布団を使用中です。






                                     (介護型リハビリシステム研究所)




←ここのネジで調整
←真上から見たところ
↓軸の傾きがキャスター角度です。
  通常は地面に対して垂直についています。
  何となく・・・傾いているような・・・気も・・・します。 
  (比較するために、垂直なボックスの前で撮影しました)
松永           パンテーラ