◆進化した情報管理システム◆リスク管理領域へ◆
〜ケアプランからリスクマネージメント領域へ〜
「情報管理」でどこまで現場を支えられるか?ケアプランに始まった独自のシステムは
リハビリ実施計画書を経て、リスク管理領域へと進化を遂げた。
【目的】
●当施設では「離施設」に対してハード面(ロック、センサーなど)や、ソフト面(職員指導、マニュアルなど)での対策を行っている。しかし、それでも年に1度程「離施設」が起こってしまう。
●「離施設」は様々な要因が重なった時に突発的に起こるため、直後の対応はその場に居合わせた職員の判断力・能力に依存するしかない。
●だが、その場の職員は予期せぬことに動揺して、速やかに周囲(各部署や公的機関)に協力を求めたり、具体的情報(容姿や特長など)を伝達する事が困難な傾向にある。
●「離施設」は起こらない、起こさないことが原則ではある。だが、万一「離施設」が起こった場合には、早急に対処しなければ、時間が経つほど利用者への危険度が増すことになる。
●その場合、「誰でも直ぐに行動できるような、簡単で確実な情報伝達システム」が備えてあれば、それに越したことはない。
●そこで、前回、前々回と本大会でも紹介してきた、当センター独自の「情報管理システム」の活用を思いついた。現行システムを応用できれば、事務的な「情報管理」から「離施設」対策という、「安全管理(リスクマネージメント領域)」としても貢献でき、更に用途が広げられると考えた。
【対象と方法】
●対象は、当介護老人保健施設(以下、老健)利用者の入所100名と通所130 (1日50)
名。
●施設内では表計算ソフトExcel2000の、ワークシート機能と関数機能の応用にて、業務で必要となる書面プログラムを組み上げ、既に安定させている。データベースは「検討会(カンファレンス)資料」と、「認定調査内容(基本調査+特記事項)」の2点で、これらの最新情報を入力することで(1)包括ケアチェック表、(2)施設サービス計画書、(3)通所リハビリ計画書(通所独自)、(4)退所時指導書、(5)紹介状、(6)資料※1、(7)リハビリテーション実施計画書など、7種の必要書類が必要事項と共に出力されるシステムである。
●『※1:資料は介護量と評価項目のレーダーチャート、肥満度、予想介護度に加え、柄澤式痴呆度、障害ADL自立度、痴呆ADL自立度などを独自の計算式にて参考表記させたもの。』
●今回、このシステムに8種目の項目として、「離施設」や「カルテ事故」に対応する目的での、新たなシートを追加させた。具体的には、利用者の画像を取り込んで、大まかなプロフィールと特長を併記したものである。
●利用者の上半身画像をシートの指定場所に挿入後、必要書類をプリントアウトしチェックしてカルテに綴じ込む、という流れとなっている。このシートには、「離施設」時の連絡網や、連絡先まで簡素化して一目でわかるよう工夫してある。もし、その場に居合わせた職員が動揺していても、その1枚を参照するだけで、具体的行動をとることが可能となる。また、コピーを配ることで各人や各機関に対して、速やかで確実な情報伝達や依頼を行える。
●システムの情報は3ヶ月おきに最新情報に書替え(上書き※2)を行うが、画像は10年のパスポートが認められている昨今、よほどの変化がない限り差し替えは行わないこととした。
●『※2:上書きを行う理由は、パソコンの使用目的が過去との情報比較ではなく、最新情報の分析と必要書類のプリントアウトにあるため。』システムに依存しすぎないよう、出力される書面は補助手段と認識すること、プリントアウト後には必ず内容をチェックし、加筆・訂正を行うことを指導している。Excelから
Accessへの変更も考えたが、既に膨大な情報蓄積の上で安定したシステムのため、このまま完成度を高めることにした。(1人分の情報量/約620KB)
【結果と考察】
●リスクマネージメント領域を意識したシステム拡張は、デジカメで撮影して画像をパソコンに取り込むという作業が増えた。しかし、印刷したものをカルテ上部に挟むことで、本人確認を確実・容易に行えるメリットが出てきた。
●具体的には診療時、痴呆症や意識障害などで本人確認ができない場合や、カンファレンス・申し送りで当人をイメージする場合などに効力を発揮している。
●情報伝達をより確実に、スムーズに行えることは、利用者取り違えというミスを防ぎ、事故を未然に防ぐ役割も果たしている。
●システム完成後の「離施設」はまだないが、万一の際の、具体的対応策があることは、職員全体に「保険的安心感(精神的余裕)」を与えているようである。
●老健は、書面主義といわれるほど関係書類が多く、職員はケアサービスに追われながら必死でそれらを記載し、処理しているという現状がある。似たような情報を書き写す作業も多く、介護現場での事務作業の効率化は至上命題となっている。
●現在、パソコンは最新情報の共有化と活用には欠かせないツールであるが、自らの施設に見合うように如何にプログラムを組み上げて調整していくかが、大きなカギとなっている。
●介護現場の管理システムは、現場関係者が「より柔軟な姿勢で、より使いやすく、より機能的に」創り上げていくのが、何より「確実で、効果的で、効率的」と考えている。
【おわりに】
●現場の目線と、臨床経験、即応したプログラムの書替え作業により成り立つこのシステムは、事務的作業の効率化とゆとりある介護サービスに繋がっている。同時に、外部査察でもかなりの高評価を得ている。
●言うまでもなく、老健は人を扱う現場である。今後、システムを更に有効活用するには、「情報管理」を単なる「事務処理」から、「安全管理」へと波及させて進化していく必要がある。これからの介護現場は、省力化を目指しながらも安全を支えていく、積極的で継続的なシステムの構想・開発が重要な位置づけになると信じている。
【ホームページ】「介護型リハビリシステム研究所」にて、各種情報を公開中