やさしく環境あぷろーち
「第19回全国介護老人保健施設大会」
シンポジウム2「転倒予防 〜われわれの対策と盲点〜」
発表用参考抄録(会場では発表内容資料が配布されます)
【はじめに】
リスクマネジメントの基本的な考え方に「ハインリッヒの法則」があります。
これは、1つの重大(重傷)事故の背後には29の軽傷事故があり、その背景には300のヒヤリハットが
存在するというものです。ヒヤリハットは「不具合(盲点)の気づき」であり、気づいても直さないとそれ
らが重複して「軽傷事故」や「重傷事故」へとつながっていきます。
そのため、どの職場でも事故の芽を早期に摘み取ろうと、ヒヤリハットの抽出と撲滅に躍起になっています。
一方、介護の世界では「身体拘束ゼロ」がうたわれるようになって久しく、既に常識となりつつあります。
しかし、実際の現場は利用者の多様化・重度化が進み、逆にマンパワーは低下の一途です。ヒヤリハットの
撲滅どころか、反対に増える要素が高まってきているようにさえ感じます。
万一、重大事故が起きると生命の危険、訴訟への発展など諸問題を引き起こすこともあるため、現場の危機
管理能力は常に問われています。いかに手厚く看護・介護・リハビリを行ってきても、一度の事故ですべて
水の泡となることがあります。これは現場に携わる人間として一番つらく悲しいことです。
【やさしい離床センサーの製作法】
介護現場のマンパワーには限界があります。現場のマンパワーが低下すると、利用者のADLやQOL、
身体能力も低下していきます。現場環境が改善しないと、リハビリの効果を上げることも困難になるのです。
そこで介護主任から懇願されていた、離床センサー開発を引き受けて少しずつ進化させてきました。
開発の基本は、現場の要望である「安価・シンプル・高機能」でしたが、これらのさりげなく無茶な注文に
応えることは楽ではありませんでした。
はじめは、ナースコールスイッチを分解・改造して、製作したスイッチを追加するという、離床センサーを
開発しました。すぐに効果は出ましたが、「時々壊れる、製作に時間がかかる」という欠点がありました。
修理や追加生産を依頼されてもなかなか直ぐには対応できません。そこで、職員でも1から作れるくらいの、更にシンプルな離床センサーを開発すれば、現場で直ぐに導入でき問題解決できるのでは、と考えました。
試行錯誤の末「材料が必ず手に入るもの」「小学生でも作れるもの」この2点をクリアした離床センサーが
完成し、現場に受け入れてもらえました。(具体的な製作法は会場の画像にて詳しく説明いたします。)
簡易離床センサーは非常に単純な構造ですが、利用者がベッドから離れようとすると、ナースステーション
に自動で連絡をするシステムです。ナースコールと連動することで、どの部屋の誰が危険動作を行おうとし
ているのか24時間体制で直ぐに察知できます。これは特に夜勤帯において非常に有効な手段となります。
この離床センサーは様々に応用が可能ですが、定期点検と整備を心がけて、過信しないことも大切です。
また、大量生産をして導入しても現場が楽になることはありません。かえって忙しくなることもあります。
簡単に道具「ハード」を手に入れる環境が整うと、今度は使う側の基準づくり「ソフト」が必要となります。
【やさしい車いすの整備法】
(離床センサーの必要のない)ベッドから一人で車いすに移乗できる利用者でも、ある日突然ベッド脇で転
倒事故を起こすことがあります。原因は、ブレーキのかけ忘れ、フットレストの上げ忘れなどの不注意や、
体調低下、薬の影響、照明、床の滑りなど様々な外的・内的要因が関わっていることが多いようです。
その一因に、ブレーキの不具合があげられたことはありませんか?ブレーキをかけていたはずなのに車椅子
が動いてしまい倒れてしまった。このような事例は現場でいつでも起こりえます。
車いすのブレーキはタイヤに直接金具を押し付けて止める構造になっています。タイヤの空気は風船と同様、少しずつ確実に抜けていきます。そのため空気が抜けるとブレーキが甘くなり移乗時に動いてしまうのです。
車いすの空気は「1ヶ月に1回」しっかりと注入しなくてはなりません。そのような整備システムをつくる
ことも事故の原因を減らす行動、「不具合(盲点)の気づき」を意識する活動につながると信じています。
※隔月刊誌「臨床老年看護」5・6月号『特集1・夜勤における事故防止と急変対応』でも特集記事を掲載しています。