非常電源供給システム「シルバーあんこう」
3.11東日本大震災で首都圏では、各地の発電所被害による電力危機で「計画停電」を余儀なくされた。
当施設も初日から「計画停電」を受けたが、直前に有合わせで作り上げた「電力供給車」によりリスク回避できた。
【はじめに】
3.11東日本大震災は千葉県内でも津波、石油コンビナート火災、湾岸液状化など様々な被害をもたらした。
発電所は福島原子力発電所の他に、太平洋側の火力発電所が被害を受け、軒並み発電停止状態になった。
東京電力管内では電力不足に陥り、3月 14 日から大規模な計画停電を余儀なくされた。
この計画停電は、複雑なグループ分けで詳細が十分に伝わらないままに、病院や信号機などを含めて強制的に
実施され、停電時の事故も多発した。
当施設も最初の計画停電のエリアであることが伝えられ、しかもその時間帯が15:20〜19:00 という利用者の夕食時で
あった。利用者の食事をどのように運ぶか、どのように明かりを確保するか、吸引はどうするか・・・難題が山積みであった。
ご存じのとおり、震災直後から全国的な買占めにより店頭から「懐中電灯」「ランタン」「電池」「発電機」は姿を消していた。
その中で約3時間の計画停電に対して、安定した電力を早急に確保することが求められた。
たまたま個人的に車関係について多少の知識があったため、リハビリ用具とカー用品の有り合わせ材料の組み合わせに
よって、電力供給車を短時間で考案・製作できた。それが現場で大変好評であったので報告したい。
【方法】
材料は、施設内で処分予定であった「シルバーカー」、保管してあった「松葉杖」、車用の「12V バッテリー」、12V バッテ
リー用の「充電器」、直流12V から交流 100V に変換する「インバーター」。これらを組み合わせて機動性の高い家庭用
AC電源供給車を作り上げた。
昼間停電時には吸引用、夜間停電時にはホール内照明を兼ねられ、誰でも簡単に操作できるよう工夫した。
照明器具は 60W相当の明るさで、消費電力12 Wの白熱電球色蛍光灯を使用した。
LEDの方が消費電力は少ないが、高価であったことと広範囲の照射に向かないことなどから、当初は暖色系蛍光灯タイプを使用した。
計画停電は最大 3時間であったため、3 時間の連続点灯と、その間想定される数回の吸引作業を試験して、
十分に使えることを確認した。
使用後は使用状況によって3〜6 時間の充電と、使用しなくても週に1回 30分程度の充電を行うことにした。
更に操作方法と危険性を書いたマニュアルを作成し、職員全体に臨時の講習会を行った上で即時に現場投入した。
この電源車は「シルバーカー」を台車にしていることと、照明の様が「チョウチンアンコウ」に似ているため、職員に親しみ
を持って使ってもらおうと「シルバーあんこう」と名前を付けた。
【結果】
最初の計画停電は予定通りに実施された。蛍光灯の非常用灯りは 20分もすると徐々に暗くなり消えてしまった。
その中で「シルバーあんこう」はひと際明るく輝き続けた。現場の職員からは、「とても明るく廊下の奥まで見えた」「吸引時
に手元がよく見えて非常にありがたかった」「とにかく安心感があり心強かった」「食事介助がしやすかった」「カルテ記載な
どの業務に役立った」など数多くの感謝の言葉をいただいた。
キャンプをした方ならおわかりいただけると思うが、闇夜に明るいメインライトがあるとないとでは精神的に大きく違
う。非常時で余震が続く中なら尚更である。
翌日、他のグループ施設では、食事介助の時に暗くて口の周りがよく見えない上、利用者が緊張していて誤嚥をおこしたとの話も聞いたが、そのようなことは当施設では皆無であった。
吸引についても明るく両手がフリーであるため、いつも通りに問題なくスムーズに行えたとの報告を受けた。
【まとめ】
当施設では計画停電を聞かされた当初、エンジン発電機で電力を何とか確保しようとした。
しかし、エンジン発電機をいざ使ってみると、「操作が煩雑」「騒音が出る」「排気が臭う」「重たい」など様々な問題があった。
危険なので屋内には置けないため、屋外に設置するとなると延長コードの問題が出てきた。
またその時点ではガソリンそのものが非常に不足していて入手困難であり、いつまで安定的な燃料確保と電力供給を行えるかが大問題であった。
それらの問題を一気に解決したのが今回紹介した「シルバーあんこう」である。
(1)バッテリーを乗せるものは、シルバーカーでなくても車いすや台車など何でも構わない。
(2)バッテリーそのものがなければ、送迎車のバッテリーを外してくれば良いだけである。
(3)インバーターは購入したほうがよいと思うが、職員の1〜2人は持っているはずなので、探せば手に入る可能性が高い。
(4)バッテリー充電器も購入したほうがよいが、これも職員の誰かが持っている可能性が高い。どうしても無い場合は送迎
車などに乗せかえて運転していれば自然と充電できる。
このように緊急事態がおこったときには、その場にあるものを組み合わせて乗り切るしかない。その一例を紹介した。
なお、この製作方法は当時緊急時でもあり、少しでも多くの方に知っていただきたいと、製作したその日からインターネッ
ト上で公開した。
ご覧になられた方もおられるかも知れないが、この機会に少しでも参考になればと詳しく発表させていただいた。
●ホームページ:介護型リハビリシステム研究所 ●アドレス:red.zero.jp/ksystem
●検索:シルバーあんこう
『介護型リハビリシステム研究所』 red.zero.jp/ksystem
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