「老健リハビリ導入システムの紹介

      ―介護型リハビリの独自性と新システムの確立―

    「リハビリテーション・ケア合同研究大会 沖縄2001論文集」
      2002年8月10日日本リハビリテーション病院・施設協会
           特別号として(株)三輪書店より発刊

           [URL] http://www.rehakyoh.jp/

 

はじめに

 21世紀の超高齢化社会と、それに伴う医療費抑制の切り札、「相互扶助の介護保険」がスタートして、早くも2年(注:発表時の経過年)が経過した。

 介護老人保健施設(以下、老健)は、リハビリテーション(以下、リハビリ)を謳い文句に地域や制度の中で中核的な役割を担う立場にあるが、@利用者100人対PT又はOT1人を始めとする、慢性的人員不足A40歳以上の障害者受入れにより、利用者が複雑多様化B社会的ニーズや採算面から、利用者は徐々に重度長期化C入浴など諸サービスの併用で、時間や書類に追われ余裕が無い等、難題は山積している。

 これら難題を抱えつつ、老健は自立支援と家庭復帰を目指して、全ての利用者を対象に身体機能の維持・向上を図らねばならない。

 医療畑出身で「治療」を志してきたPT・OTらは、老健常勤になると「質と量のジレンマ(質を高めるには個々に時間が必要、量をこなすには個々の時間を逆に減らすことになる )」に陥り、精神的・身体的に追い詰められ、悩み苦しんで結果的に長続きしない。

 施設によっては、PT・OTが不在になることを恐れて、お世話中心型を選択し消極的リハビリを行っている所もあると聞く。

 老健リハビリに真剣に取組むならば、従来の「1利用者対、1PT(またはOT)」という、「医療型」個別(マンツーマン )リハビリではバランス上限界があることを、PT・OTそして管理運営者はまず認識する必要がある。

 例えば、利用者がPT・OTの評価を待つがために、何日間も寝かせきりにさせられていたり、指示が入らないという理由だけでリハビリのグループから外されたり、立位・歩行の能力があるにも関わらず、座位によるグループリハビリしか行わなかったり…。それらを続けることは、施設内で廃用症候の温床をつくることに他ならない。

 老健のリハビリは「理念あって中身無し」と言われる前に、単純でも最大効果を上げる「介護型」リハビリシステムの早期開発・導入に着手する必要がある。

 ここでは関連施設「晴山苑(国内初の老健)」に、モデル時より約15年間関わり、当センターにおいて確立した独自の「老健リハビリ導入システム」を紹介したい。

 昨年5月の全国PT学会で大変反響を頂いたこのシステムは、利用者全員を対象に個々の能力に応じた早期かつ継続的なリハビリを可能とした。同時に職員のチーム化により、「評価⇒計画⇒実施⇒記録」という一連業務の簡素・効率化を実現し、速やかで確実な効果を上げてきている。

対象と方法

 対象は当センターの利用者約230名(入所100、通所50/130)。人数と場所、利用者層の関係で、1・2・3階と各フロアに分かれPT指導のもとで、入所は週3〜4日、通所は毎日、リハビリを実施している。

 新規利用または体調変化時に、介護職員は「Kitazono式振分表※資料参照」(PT評価との整合性は9割…第10回老健大会で発表済)を用いて能力評価を行い、各集団に振分けPTに提出する。

 PTは結果を確認後、各階毎にリハビリ内容を「機能訓練計画一覧表」にまとめ毎回配布する。

 各階リハビリ担当職員は、それを見て訓練を実施し、結果と特記事項を直接記入してPTへ返却する。

 受け取ったPTは内容確認後、「機能訓練日誌」としてそれらをセンター長・師(婦)長に回覧報告した後、保管する。

 訓練の場にPTはできるだけ参加し、リハビリ担当者会議や、連絡ノート、プチ講習会などで現場との密な情報交換を心がける。

結果


 このシステム開始当初は、一部利用者・職員にやや混乱も見られたが、1ヶ月以内に定着した。

 今では余裕も生まれて、利用者・職員とも和気藹々行っている。利用即日に参加可能な能力別集団化は、無理せず着実に実施することで効果も上がり(能力別集団リハの高い有効性…第11回老健大会で発表済)、利用者は充実感と連帯意識が生まれ、職員は自信と質の向上を意識するようになった。

 何よりも、現場職員が利用者の身体レベル変化を把握できることで、すぐにADLや介護に繋いでいく姿勢が顕著になってきたことは、特筆すべき点である。

おわりに

 15年余の歴史しかない老健リハに対して、改革の時代は「独自性」を求めている。

 残念なことに、PT・OTを始めとする医療出身者は、未開拓の介護システムに、崩壊しつつある医療システムそのものをコピーして導入していこうという風潮があり、大いに危惧している。

 お役人や諸先生方も介護保険の新分野で、新たなシステムの必要性を強調されてはいるが、具体論になると言葉が濁り、充分な回答が得られないのも事実である。

 もし、諸問題を単にスタッフの増員で解決できると考えているようなら、いずれ費用も増大し医療の二の舞になるに違いない。

 増加一方の利用者に対し、「保険料は低く抑えて、頂く費用に見合うか、それ以上の公平なサービスを個々に提供し続けるにはどうすればよいのか。」それらを真剣に考えなければ、今後の答えは導き出せない。

 幸いなことに、某脳外科専門病院において約10年間1人で1日80人前後を任されてきた私の経験は、100対1のスタイルを難なく受け入れられた。同時にモデル老健時代から現在まで、非常勤として客観的に関わってきたことも、現在のシステムを生み出すきっかけとなった。保健師(婦)と共に訪問リハビリを行っていたことも、具体的な在宅像を描くことに役立っている。

 医療制度改革により、医療現場のリハビリ体制も崩壊しつつある。事務・看護などは、サービス以上に平均在院日数をクリアするため血眼になっている姿が伺える。

 リハビリもその煽りをうけ訓練半ばで、週明けにはベッドが空になっていることも少なくない。かといって、その後医療方式のリハビリを老健に求めるのもおかしい。本来、老健は医療(治療)を行う場ではなく、現状の機能を維持させた上で、如何に自立に向けるか、如何に自宅復帰などの方向性を見極め、速やかな環境設定をするかという、介護中心に方向性を煮詰める場であると考える。そのため、もし本当にマンツーマンで訓練時間が必要な利用者がいる場合は、迷わずに医療機関のリハビリを紹介している。医療機関のリハビリでは、患者がいつ退院してもよいように、短期・短期の計画を繋ぐと同時に、ベッドコントロールから訓練半ばで老健に送る事態だけは防いでいただきたい。

 老健のリハビリで、変化しそうな行いやすい利用者のみを訓練室に連れてきて、専門的リハビリを実施している施設もある。確かに見た目には良いし、一部には好評かも知れないが、同じ料金を払ってきている他の利用者との公平感を大きく損なうことになる。

 全ての個々の利用者に、身体状況を維持・向上・管理していく意志がなければ、今回紹介した新システムの導入はできない。

 我々老健のPT・OTは施設の柱となり、システムを構築し、スタッフを育て、各方面との密な情報のやり取りを行うことを常に求められている。

 老健のPT・OTは「介護型リハビリ」という新たな発想で、「職人から指令塔へ」変遷していく必要に迫られているのである。


資料・Kitazono式振分表

 振分表は簡単で、誰でも行えるツールだが、幾つかの注意点(約束事)があることをご承知戴きたい。少なくとも迷った場合は、低いレベルに抑えないと事故を招く危険性があり、訓練記録に残すにも集団・個別の振分概念が必要となる。もし、施設において実際に利用を検討される場合は資料冊子(わかりやすく、システムの導入方法から、振分表の使用法、機能訓練計画一覧表、データ集積手段、具体的訓練内容などを紹介している)を、是非お取り寄せ願いたい。



                    介護型リハビリシステム研究所