第2回 ■ぼたっくられっぱなしのハノイだった■
10ドルタクシーには、運転手の他になぜか助手が乗っている。タクシー会社の名はノイ バイ・トランスポート・コーポレイティヴ。見渡せば他のタクシーの姿はない。ちょっと
解せない気持ちで乗り込んだ。助手は多少英語がしゃべれるので、どこから来たのか、何 人かとか、愛想よく話しかけてきた。俺にとっては初めてのベトナム、気分よく応対して
いた。
俺はホアンキム湖のほとりに宿をさがすつもりでいた。ホテルの窓からナイスヴューを 楽しみたかったのだ。その旨を伝えると、ホアンキム湖から2〜3分のところにいいホテ
ルがあるという。連れて行かれたそのホテルの名はプリンスホテル。その時はじめてわか ったのだが、助手はプリンスホテルの回し者だったのだ。俺を連れていけばコミッション
がもらえるに違いない。ホアンキム湖まで歩いて30分はある。エレベーターもない。案内 されたのは3階の部屋。こんな上の階はいやだと言ったら、2階は予約でいっぱいだとい
う。それならホアンキム湖のほとりのホテルに行くと言ったら、25ドルを20ドルにまける という。それでも3階はイヤだと言ったら、予約でいっぱいのはずの2階の部屋に通して
くれた。薄暗くてとても20ドルの代物ではない。でも、ベランダに出て気持ちが変わった。下の往来に、人々の行き来や、忙しそうな商店の様子が見渡せたのだ。これはシャッター
チャンスだと思った。日は暮れかかっているし、このホテルにおちつくことにした。
部屋には、最初しかお湯の出ないシャワーが付いている。Wベッドには薄汚いカバーが かかっている。後で泊まったホーチミン市のホテルは、20ドルも出せばもっときれいだし、
バスタブも付いているし、お湯も好きなだけ使えるし、朝食まで付いていた。
フロントの女はナーバスで、不機嫌だ。俺が5ドルまけさせたのが気に入らないのかと 思った。その分、彼らのコミッションが減るからだ。彼女にフエまでの汽車賃もぼられた。彼女が手配した切符は60ドル。同じコンパートメントに
乗り合わせた二人連れの若いアルゼンティーナは40ドル、フィリピン人の男は35ドルで買った と言っていた。ノーコミッションだというからたのんだのに、なんということだ。
こんなホテルに俺を連れて来てしまった助手の名はコアン、プリンスホテルの3階に住んでいるというが、さだかではない。
あくる朝、俺がフロントに行くとコアンがロビーにいた。お茶でも飲みに行こうと誘わ れたので、彼のバイクの後ろにまたがった。コーヒーショップでは和気あいあいとベトナ
ム式のコーヒー(エスプレッソにコンデンスミルクのたっぷりはいった甘いコーヒー)を 飲み、写真を取りまくった。会計の時になって、わりかんにしようと言ったらきょとんと
いう顔をした。彼はあきれた様子で、25,000ドン(1.8$)、俺の分まで払った。俺をプリンスホテ ルまで送ると、仕事でエアポートへ行くという。また俺みたいな犠牲者を物色に行くに違
いない。そして、俺の案内を自分の舎弟みたいなやつに引き継いだ。乗りかかった船、いや、渡りにバイクだ。俺は内心シメタ!と思っていた。ところが、どっこい、そうは問屋がおろさなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・。 つづく
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