701系電車の現状と問題点
はじめに
昨年12月に盛岡・ 一関間の列車が新型電車になりました。
それ以前は4人がけのボックスと入り口付近がロングシートの併用タイプで4両編成以上の列車が多かったのですが, 新しい電車になって多くの列車が2両編成になりました。単純に考えても座席数が半減したことになります。
この報告では, 東北各地に導入されている701系電車の問題点をできるだけ客観的に報告したいと思います。 毎日JR東を利用 している皆様,この報告をお読みになってどうお思いでしょうか。
「通勤電車を考える岩手県民の会」(下記注参照)は,利用者の苦情をまとめる 窓口になろうとして岩手の鉄道ファンが主体となって結成されました。この報告に 政党・ 労組や思想的な色合いは全くありません。 そもそも,「混んで坐れない」 「4人掛けボックス型に坐りたい」等々に, そのようなものが入る余地は全くあり ません。この電車の問題点を多くの人に知って頂きたい,そしてその改善に向けて 各自が行動して欲しいという思いからの報告です。
平成7年10月 「通勤電車を考える岩手県民の会」
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(注) 「通勤電車を考える岩手県民の会」は, 現在会員数は10数名です。鉄道関 係の雑誌等を通して, 他県で701系電車がどのような経過をたどったかをよく知っ ているだけに,岩手を他県の二の舞にさせまいという思いで結成されました。
これまでの主な活動は, 2月17日に盛岡市の教育会館大ホールで市民フォーラム を開催しました。 そのフォーラムでの内容を踏まえて,2月20日には「利用者・市 民に密着した鉄道経営のお願いについて」と題して, 701系電車の改善に関する要 望書をJR東盛岡支社長に提出しています。3月1日には,運輸省鉄道局保安車両課 に、JR東に対して改善の指導をしてもらうべく要請しました。同日,盛岡市と盛岡市議 会に対してもJR東盛岡支社に改善を要請してもらうべく陳情書を提出しています。 6月下旬には電車の揺れ方を測定し,通常の電車では見られない揺れ方をしている ことを確認しました。8月には,秋田・青森地区の様子を視察してきました。
現在は,この問題を中央のマスコミに取り上げてもらうべく活動中です。
*** 目 次 ***
1 導入前後の変化
2 701系電車の特徴
3 乗客にとっての利点
4 他県の状況
5 JR各社の対策
6 JR東の認識
7 ロングシート化の理由
8 ロングシート車の着席率
9 接客設備の上の問題点
10 乗り心地から見た問題点
11 「坐れない」ことの問題点
12 車体構造上の問題点
13 消費者保護上の問題点
14 岩手の地域性からみた問題点
15 JR東の対応
16 おわりに
****************************** 1 導入前後の変化 昨年12月に盛岡・一関間に導入された電車は,701系と呼ばれる3扉ロングシート の電車です。 基本設計は首都圏の京浜東北線などを走っている電車(209系)と同 一です。 以前は,出入口付近がロングシート,中央寄りは4人掛けボックス型の50系と呼 ばれる客車でした。 このようなタイプの電車はセミクロスシート車,4人掛けボッ クス型だけからなる場合はクロスシート車と呼ばれています。 朝夕の通勤時には, 7両編成だったものが4両編成に削減されました。 客車4両 (座席数281)の定員(388名)が電車2両(座席数102)に乗ると,着席率は72%か ら26%に激減することになります。 その結果,通勤・通学時には始発からでも並ばないと坐れなくなりました。途中 から乗る場合はなおさらです。日中であっても,必ずしも坐れるとは限りません。 701系導入当初は, 積み残されて大量の遅刻者を出した高校もあります。帰宅時 の始発電車でも,並ばないと坐れない状況は盛岡・一関で現在も続いています。20 分以上も前に行って並んでいないと坐れない場合もあります。 2 701系電車の特徴 701系電車の基本設計は, 「価格半分, 寿命半分, 重量半分,ノーメンテナン ス」をモットーとして開発されて首都圏の京浜東北線などで使用されている電車 (209系)と同一のものです。 効率的な輸送形態の整備と終端駅での機関車入換業 務の大幅削減を目指して開発されました。製造費用が少なくてすむことや終端駅で の構内作業や保守作業が大幅に簡略化されたことなど,JR東は経済的にも現場の負 担減などからみても相当大幅な効率化を図れたのではないかと思われます。秋田駅 では,構内作業の40%が削減できたようです。 3 乗客にとっての利点 この電車の良い面としては,以下のようなものが上げられます。 ・冷房があり梅雨時や夏は助かる。 ・加速性能が良く,各駅間は僅かずつでも短縮された。 ・ゴミを座席の下に捨てにくくなり車内が以前ほど汚れなくなった。 ・3扉になり乗降がスムーズになった。 ・灰皿が車内に一個しかなく禁煙者はありがたい。 ・ロングシートになり車内が広々としている。 ・忘れ物(特に傘)が少なくなった。 ・東京の電車に乗っているような気分になる。 このタイプの電車はもともと近距離輸送用の電車なので,近距離区間の利用者は 利便性は感じても特に不満は感じないかもしれません。他県でも,近距離区間で運 用されている地区では不満の声は少ないようです。 4 他県の状況 この電車は, 岩手より先に秋田・青森・山形で導入されています。1993年6月に 奥羽本線(山形・大館間)や羽越本線(秋田・酒田間)に導入され,同年12月から は奥羽本線(大館・青森間),東北本線(青森・浅虫温泉間),津軽線(青森・蟹 田間)でも使用されています。そして,導入当初は他県でも岩手と同様の不満が上 がりました。 東奥日報(1994年1月8日)の「欠点だらけの新型通勤電車」とする一利用者の声 (要約)によれば, 「新型電車を楽しみにしていたが,これがJRのやることかと憤まんやるかたな い。 座席が少なくなった分一両の定員が増加し,その分連結車両が減らされて始発の弘 前からでも立たなければならなくなった。単線で駅のポイントにくると大きく揺れ る。吊革の位置が高く年寄りには届かない。路盤の整備をそのままにしてスピード を上げるからとにかく揺れる。青森に着くと腰が痛くてしかたがない。寒冷地なの にドアが直接,しかも両開きに開き冷気がどっと入ってきてせっかく暖まっても元 のもくあみである。座席の幅は夏服でやっと定員通り坐れる設計と思われ,冬はま さに肩身の狭い思いで座らなければならない。ここは青森,大都会のコセコセした 生活を押しつけてほしくない。」とあります。 5 JR各社の対策 JR東以外のJR各社は通勤・通学電車に対してどのよう対策を取っているかをみる と,おおむね私鉄やバス等との競合区間では乗り心地のよいクロスシート車を投入 しています。 例えば,JR西日本はオール転換クロスシート車(221系)を投入して 関西ナンバーワンの乗降客数を梅田から大阪に取り戻しています。 JR東でさえ, 首都圏では通勤ライナーや2階建て電車を走らせるなどして,何と か着席させようと努力しています。 一方,他地区でも,地方でロングシート化すると乗客の不評をかうことが多いよ うです。最近,中長距離区間にロングシート車を増備しているのはJR東だけのよう で,この区間に競争相手がいないことも影響しているかもしれません。 6 JR東の認識 乗客の苦情に対するJR東の認識をみると,JR東秋田支社運輸部輸送課長は「昨年 夏に701系の第一陣が登場した頃には, 落ち着かない,坐れないといった苦情が多 かった。しかし,それから半年近くたち,山形・秋田ではそうした声も少なくなっ た」と言っています(「鉄道ジャーナル」,第28巻第4号54頁)。 他の文献で見ても, 導入当初は不満が多かったが1年たつと苦情はほとんどなく なり, 「乗り心地の格段の向上とあいまって, お客様の声はおおむね好意的であ る」としています(「鉄道ジャーナル」,第29巻第3号42頁)。 そして,ついに岩手でも「苦情は減少傾向」という見出しとともに,来春からこ の電車の盛岡以北への導入が発表されました(岩手日報1995年7月26日)。 岩手の乗客は,本当にこの電車に苦情が無くなり好意的になったのでしょうか。 7 ロングシート化の理由 701系をロングシート化した理由は, 多くの乗客を乗せることができるというこ とのほかに, 車内で飲食や喫煙をさせないことにあるようです。 「鉄道ジャーナ ル」の取材班は,JR東秋田支社運輸部輸送課課長の話などから,車内での高校生の マナーや男性客の飲酒などが他から顰蹙を買うことが多かったようで,そのような 振る舞いを止めてもらうことがロングシートを採用した大きな理由であったとして います(「鉄道ジャーナル」,第28巻第4号54頁)。 8 ロングシート車の着席率 701系電車4両に定員が乗ったときの着席率は38%です。 以前の車両4両に定員が 乗ったときの着席率は72%でした。同じ車両数でも,ロングシート車になるだけで 着席率は大幅に低下します。それに加えるに,車両の数まで半減されているので す。 しかもそれは,乗客に何ら周知されることなく行われました。乗客は,ある日突然 首都圏同等の混雑を強要されたことになります。 JRは,ロングシート車が首都圏で定着していると強調していますが,首都圏では どうにもならない混雑の緩和のためやむをえず導入されているに過ぎません。決し て乗客から好評を得ているわけではなく,休日の中長距離区間のロングシート電車 は「乗客の恨みを乗せて走っている」と酷評する識者もいるほどです。 9 接客設備の上の問題点 「坐れなくなった」ばかりではなく,この電車はそれ以外にも多くの問題が感じ られます。 ・ロングシートになって,車内で仕事や勉強ができなくなった。 ・長時間乗車の乗客は,車内での有効時間を奪われたことになります。 ・混雑のため,車内で朝食を取ることもできず,ゆっくり新聞も開けません。 ・着席しても頭をもたせかけることができず,長時間乗車していると首が疲れま す。 ・ 3扉ロングシートのため,ドアが開くと車内の暖気が一斉に逃げ,寒気が吹き寄 せてきます。 ・ドア開閉時の音がうるさくて眠られません。 ・長く坐っていると座席下の暖房が熱くてたまりません。 ・雨天時には傘を掛ける場所がありません。 ・混雑時には中に入っても捕まるところがありません。 等々,数え上げるときりがないほどです。 このうち,乗客の最大の不満は「坐れない」「ロングシート」「ドアチャイム」 「座席下の暖房」「ドア開閉時の寒気」にあるのではないかと思われます。 10 乗り心地から見た問題点 「通勤電車を考える岩手県民の会」では, 今年の6月下旬に盛岡・好摩間の東北 本線(50系客車)と盛岡・花巻間(701系電車)とで車体の揺れ方を測定しまし た。 データを解析すると, 701系電車の揺れは50系客車よりも特に大きいという結果 は得られませんでした。 701系電車の上下動は,50系客車と比べて格段に減少して います。 しかし,横揺れをみると,50系客車は横揺れが生じてもすぐに減衰しておさまる のに対して, 701系ではその揺れが止まりません。それは正弦曲線で近似できるほ どで,車端部での変位(cm)は x=2.5sin6.3t (t:秒) となります。つまり,701系 電車は走り始めると車端部が毎秒約5cm左右に揺れていることになります。 この揺れは,吊革を見ていれば明らかです。車端部ほど揺れが大きく,しかも前 部と後部とでは左右逆に揺れています。JR全線を乗った人は,「これほど乗り心地 の悪い電車はない」と言っています。 それにもかかわらず,JRは「乗り心地を動揺測定により行ったところ,盛岡・一 関間の全区間で『非常に良い』または『良い』という結果が得られている」と発表 しています(岩手日報1995年6月1日)。 11 「坐れない」ことの問題点 首都圏の混雑を見慣れると,「坐れない」ことは何か当然のことにように感じら れるかもしれません。しかし,首都圏の混雑はJRの努力だけではどうにもならない 混雑であり,むしろ首都圏の方が異常なのです。 実際,中京圏や関西圏では,路線による違いはあるものの,ラッシュ時の着席率は平均すると50%と言われていま す。 欧米では,郊外からの通勤列車の着席率は事実上100%です。そもそも,100km近い 区間を走る輸送機関で着席の保証がされていないのは,鉄道くらいのものではない でしょうか。 12 車体構造上の問題点 理由は定かではありませんが, 導入されて半年の岩手の701系電車で,車輪に偏 摩耗が生じて青森運転所まで修理に出された車両があります。 また,導入されて2 年目の奥羽・ 羽越線の701系電車では,どの車両にも程度の差こそあれ車体中央部 の側板にシワがみられます。 13 消費者保護上の問題点 東北の多くの県では,JR東以外に大量輸送機関がありません。乗客は,ある日突 然車両数を削減されて首都圏並みの混雑を強いられても,他に選択の余地は無くそ れに甘んずるしかありません。苦情が殺到しても何ら有効な改善策は施されず,次 々と同じことが各県で引き起こされています。座席数の大幅削減という乗客にとっ て実質的に運賃値上げに等しいことが,何のチェックもなく一鉄道会社だけの判断 で行われています。 首都圏では,通勤・通学時にもできるだけ座席を確保しようと各社努力中です。 首都圏ほど頻繁に電車が通るわけでもない東北で,混雑だけ首都圏並みにされるこ とは地域間不均衡そのものです。消費者保護の立場から見ても問題があるのではな いでしょうか。 14 岩手の地域性からみた問題点 岩手県では,盛岡,花巻,北上,水沢,一関と,平野部に約20〜30kmおきに県内の主要都市が配置されています。 これら都市間相互の移動も多く,沿線沿いには工業団地や高校・大学等の文教施設も多くあります。 県にとっては北上川流域の産業上の重要地域です。 盛岡への通勤圏は北上・水沢まで,一関への通勤圏も北上・花巻にまで及んでおり50km以上の通勤者も珍しくありません。 四国4県ほどの広さの岩手県において, しかも県内の主要都市が立ち並ぶ平野部 での移動に,立つことを前提とした近距離輸送列車しかないのは県内の主要都市を 結ぶ鉄道網として十分といえるのでしょうか。 新幹線があるとはいえ花巻や水沢・江刺の駅舎は市の中心部から離れており,気軽に利用できる状況ではありません。 このような重要路線に快速電車さえ設定されていないのは,県勢の向上や企業誘致を図る上でも問題ではないでしょうか。 15 JR東の対応 JR東は,殺到する不満に対してどのような対応をしているでしょうか。 これまでに改善されたのは,「1往復に対して2両の増車」,それとシルバーシー トが目立つように「オレンジ色のカバー」が掛けられ,「吊革の長さ」が長くなり ました。また,「ドアチャイム」の音量がいくぶん下げられたようです。「座席下 の暖房」も改善したと言っていますが,これは今年の冬に確かめることになるでしょう。 いずれにしろ,「坐れないこと」と「ロングシート」であることについてはほと んど何の改善もなされていません。 16 おわりに JR東は, 秋田,山形,青森,岩手,宮城,そして5月からは新潟にも同タイプの 電車を投入しました。 新潟では,6両から2両に削減された車両もあります。 それは,JR東がこの電車に並々ならぬ決意で当たっているということでもあります。 この電車に慣れたのであれば,それはJR東の見通しが正しかったということになります。 今だに慣れることのできない方,今だに不満を内在させている方,ただ黙っていては事態は何も変わりません。 JR東からは,「苦情が少なくなり乗客に受け入れられた」と思われるだけです。 ★ もし何か行動を起こそうと思われた方は,どうか下記宛にご連絡下さい。 不満はあるが連絡するほどではないという方は,どうかその不満の意志をJR東に表明して下さい。 あるいは,消費者の立場として県民生活センターなどに相談して下さい。 事態の改善には,ともかく個々の乗客が不満があることを根気強く言い続けることが必要かと思います。 沈黙は,現状を認めることでしかありません。 [連絡先] 〒020 盛岡市仙北一丁目16-3 「通勤電車を考える岩手県民の会」 | 代表 鈴 木 一 夫