鉄道関連の法制度について

2001.4.29 全国鉄道利用者会議総会 清水孝彰

<はじめに>
 行政との交渉や提言を行っていくに当たり、住民・利用者の要望を法令に基づい て主張できれば、単に要望を並べるだけよりも効果は大きくなる。法令の中で、使 える部分はそれを生かし、悪い部分は改正するよう主張していくことが、行政と話 し合うときには求められる。
 現在はインターネットによって、誰でも簡単に法令を読むことができるように なった。この度、鉄道関連の法律を読む機会があったので、鉄道事業法と鉄道営業 法を中心に、法制度を概説する。
(<→………>は筆者コメントを示す) 

1.鉄道関連の主な法律
・鉄道事業法…鉄道事業の運営に関する事業者と行政の手続きを定めた法律。
・鉄道営業法…鉄道営業における事業者・利用者双方の基本ルールを定めた法律。
・全国新幹線鉄道整備法…新幹線の建設に関する行政の手続きを定めた法律。
・その他…国鉄改革法やJR会社法など、国鉄改革時に成立した特別な法律があ る。

2.鉄道事業法(昭和61年12月制定 平成12年5月改正 平成13年4月1日施行)

第1章 総則(第1条〜第2条)
○目的 「この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることによ り、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、 もつて公共の福祉を増進することを目的とする。」
<→目的には利用者保護をうたっているが、内容は事業者と国土交通省の間だけで 進める仕組みになっており、住民・利用者の参加する余地がない。>
○定義 第1種・第2種・第3種鉄道事業、索道事業、専用鉄道の違いについて。

第2章 鉄道事業(第3条〜第31条)
○許可 事業基本計画その他書類を事業者が国土交通省へ提出。
○工事 事業者の工事計画が事業基本計画、鉄道営業法第1条の規程に適合すれば 工事認可。
○施設の検査 工事計画、鉄道営業法規程に適合するかを国土交通省が検査。
○車両の確認 使う車両が鉄道営業法規程に適合するかを国土交通省が確認。
○運賃及び料金 事業者の定めた運賃等の上限を国土交通省が認可、上限の範囲内 で運賃等を定め、届出。「特定の旅客又は荷主に対し不当な差別的取扱いをするも の」「他の事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるもの」の場合、届 出運賃の変更命令が可能。
<→企画切符は認可・届出の対象にならないため、事業者が独自に設定・変更・廃 止可能。>
○運行計画 いわゆるダイヤグラム、国土交通省への届出義務。
○事故等の報告 重大事故の国土交通省への届出義務。
○土地の立入り及び使用 工事等の土地使用に関する権利者への損失補償につい て。(当事者間協議→知事裁定→訴訟 の順)
○乗継円滑化措置 他の事業者との乗継円滑化措置の努力義務、協議に応じる義 務。
<→交通バリアフリー法の反映条項。但し、適用は鉄道同士の乗継のみで、バス等 との乗継は対象外。>
○事業改善命令 利用者の利便を阻害している場合、国土交通省は事業者に対する 以下の命令が可能。
(1)運賃等の上限変更
 (2)運行計画変更
 (3)工事実施方法、鉄道施設、車両、運転に関する改善措置
 (4)安全かつ円滑な輸送を確保するための措置等
<→この条項があるため、国土交通省に事業改善命令を要請することが可能。>
○事業の譲渡及び譲受 事業の譲渡及び譲受に国土交通省の認可が必要。
○事業の廃止 廃止の1年前に届出、地方自治体及び利害関係人の意見を聴取し、 その結果によっては廃止日を繰り上げることも可能。
<→鉄道の廃止が、認可から届出に規制緩和された条項。>

第3章 索道事業(第32条〜第38条)

第4章 専用鉄道(第39条〜第40条)

第5章 指定検査機関(第41条〜第53条)

第6章 雑則(第54条〜第66条)
○報告の徴収 国土交通省は、事業者に対し業務及び経理の状況を報告させること ができる。
○運輸審議会への諮問 運賃等の上限認可、運賃・料金の変更命令の処分は、運輸 審議会へ諮問が必要。

第7章 罰則(第67条〜第76条)

3.鉄道営業法(明治33年3月制定 平成7年改正)

第一章 鉄道ノ設備及運送
第一条【鉄道建設・車輌機器構造・運転】
 鉄道ノ建設、車輌器具ノ構造及運転ハ命令ヲ以テ定ムル規定ニ依ルヘシ
<→いわゆる「普通鉄道構造規則」。本会でよく問題にする車両や運行計画は、こ の規定に適合していれば認可されてしまうため、この規定を変えていけるような提 案ができればよい。>
第三条【運賃その他の運送条件】
1 運賃其ノ他ノ運送条件ハ関係停車場ニ公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコ トヲ得ス
2 運賃其ノ他ノ運送条件ノ加重ヲ為サムトスル場合ニ於テハ前項ノ公告ハ七日以 上之ヲ為スコトヲ要ス
第六条【運送拒絶の禁止】
1 鉄道ハ左ノ事項ノ具備シタル場合ニ於テハ貨物ノ運送ヲ拒絶スルコトヲ得ス
五 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ基因シタル運送上ノ支障ナキトキ
2 前項ノ規定ハ施客運送ニ之ヲ準用ス
第十五条【旅客の乗車、乗車券】
1 旅客ハ営業上別段ノ定アル場合ノ外運賃ヲ支払ヒ乗車券ヲ受クルニ非サレハ乗 車スルコトヲ得ス
2 乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得
<→この条項が、全員着席を原則とする根拠である。>
第十六条【運賃の払戻】
1 旅客カ乗車前旅行ヲ止メタルトキハ鉄道運行規程ノ定ムル所ニ依リ運賃ノ払戻 ヲ請求スルコトヲ得
2 乗車後旅行ヲ中止シタルトキハ運賃ニ請求スルコトヲ得
第十七条【契約の解除】
 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ因リ運送ニ著手シ又ハ之ヲ継続スルコト能ハ サルニ至リタルトキハ旅客及荷送人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ鉄 道ハ既ニ為シタル運送ノ割合ニ応シ運賃其ノ他ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
<→列車が気象災害等で途中で運転を取り止めた場合に、既に乗車した区間の運賃 は利用者には返らず、未利用区間の運賃しか返金されないのは、この条項が根拠と なっている。>

第二章 鉄道係員

第三章 旅客及公衆
第三十三条【罰則】
 旅客左ノ所為ヲ為シタルトキハ三十円(2万円)以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 列車運転中乗降シタルトキ
二 列車運転中車輌ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ
三 列車中乗用ニ供セサル箇所ニ乗リタルトキ
第三十六条
1 車輌、停車場其ノ他鉄道地内ノ標識掲示ヲ改竄、毀棄、撤去シ又ハ燈火ヲ滅シ 又ハ其ノ用ヲ失ハシメタル者ハ五十円(2万円)以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
2 信号機ヲ改竄、毀棄、撤去シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ処ス
第三十七条
 停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス

<おわりに>  鉄道は公共事業でないため、「基本計画」「整備計画」といったものが存在しな い。対して新幹線は公共事業であり、「基本計画」「整備計画」が存在するが、現 実とは乖離している。その結果、在来線は交通政策審議会(旧運輸政策審議会)の 答申、新幹線は政府・与党申し合わせが事実上の基本計画となっており、法律によ らず政治的に事業が進められている。
 法的には、鉄道事業は事業者の提出する事業基本計画と、普通鉄道構造規則に適 合するように進めればよいこととなっており、全国総合開発計画・国土利用計画 や、都市計画マスタープラン等との整合さえ図られない。
 住民・利用者が法的に参加可能な機会は、都市計画決定手続(都市計画事業の場 合)、環境影響評価手続(環境影響評価対象事業の場合)のみで、いずれも他の法 律を根拠とするものであり、鉄道事業としての住民参加制度はない。都市・河川・ 道路行政は、基本計画策定過程を中心に住民参加が進んでいるのに対し、旧運輸省 系の鉄道・航空・船舶等の行政は住民参加が遅れている。また、国土交通地方懇談 会の開催等、最近こそ地方分権の兆しが見え始めたが、道路などと違い、自治体が 事業者にならない限り独自の計画策定は困難である。
 都市計画決定手続や環境影響評価手続への参加、交通政策審議会のパブリックコ メントへの対応、情報公開請求、(場合によっては自ら事業者となる)など、利用 できる住民参加機会を利用しつつ、同時に鉄道の計画策定への住民・利用者の参加 制度を確立するよう要請していくことが必要となろう。