97.7/12  交通権学会(埼玉大学) 自由論題  「現代日本社会における鉄道論議の現状とその方向性   ー国鉄改革10周年を迎えた現状と鉄道整備(新幹線)論議を踏まえて」    武田 泉(全国鉄道利用者会議代表/北海道教育大岩見沢校講師・交通地理学) 「岩手における701系電車の現状」:矢部賢一(都立大・院;鈴木一夫代理)と共同報告準備の都合で、内容の一部を変更して報告  0、はじめにー今日の鉄道をめぐる認識ー ■発端→地方における鉄道旅客サービスの改変「ロングシート車両」問題 *巷では、国鉄改革(分割民営化)で「鉄道問題は解決済」という認識が大勢  ーー行政改革や規制緩和(市場メカニズム 重視)を先導し、成功したという認識  〜鉄道は民間会社(特殊会社)の運営で、採算性によって判断されてよい  〜事業者主導の考え方に支配(相対的に事業者は利用者軽視の発想あり) *「路面電車復権」論議〜路面電車サミット(岡山)〜中欧型超低床車、マイカー削減  盛り上がり←ー建設省の補助制度創設、事業者による一部復活宣言  〜「都市」をめぐる交通体系として論議、路面電車単独の復権論議に終始 CF) 他の交通機関との連携など総合的交通体系論議(運賃〜運輸連合・事業者の選定)  我々の主張する「鉄道の復権・活用策」〜なるべく現存の鉄道(JR)ネットワークの活用 *鉄道の復権・(エコツーリズム)の論議の不十分さ  ー→「COP3(地球温暖化枠組条約京都会議)」への対応としての自動車削減  ー→「トロッコ列車サミット」(JR四国)〜特別仕様車両によるジョイフルトレイン の運行  〜沿線路盤に植栽(景観面で配慮)、旅行形態への提案のみ  鉄道車両の動力に環境対策を施そうとしていない(蓄電器・ソーラーパネル・低公害エンジン) ー→こうした鉄道論議に本質が見出せず、物足りなさを感じる(〜発端)  1、国鉄改革(分割民営化)後の鉄道運営の変化 ●国鉄改革10周年の今日、鉄道をめぐる表と裏の側面 ・秋田ミニ新幹線/ほくほく線(北陸スーパー特急)/世界最速山陽新幹線新型車両 ・今後、整備新幹線並行在来線の廃止論議 〜〜マスコミ報道に地域差、扱いの大小ー→表面的イメージの先行 〜〜「整備新幹線悪者論」の中で、当該法律によらない鉄道整備が実現 ★旅客サービスの悪化(見えにくいところから実施〜ずる賢くなったJR) →特に採算性の乏しい地方において、鉄道旅客サービスの悪化が目立つ ●鉄道車両「クロスシート」からベンチ 型「ロングシート」(通勤型)へ 〜詰め込み思想・「立席定員」ー→JR普通列車の座席が大幅減(効率・経営優先〜車両も減)  (車内設備〜座席数(ロングシート)、デッキ構造、ワンマン機器、チャイム、トイレなし車両 〜〜国鉄時代の不可欠なアイテムのカット〜求められる鉄道車両に逆行  〜本来は、増結や荷物室スペースで対応すべき  →東北地方への強引な導入(JR東日本)、「車いすスペース」が座席撤去の口実 ・ダイヤ編成(特に地方における遅延時の接続の確保) ・運賃・料金制度とその改変(周知徹底されない、疑問に答えない) ・待合室(無料で使える公共スペース)、駅舎内のレイアウト(関連事業との関係) ・鉄道林など鉄道用地内施設の改廃(採算性に傾斜〜制度に問題) →原因:鉄道事業の自立採算原則、鉄道インフラ投資の軽視、厳しい規制、  全国一律の政策(東京の混雑を地方へ)〜公共空間より営利空間を指向 →国鉄分割民営化後のJR事業(特殊会社)←行政監察対象  〜対応できない、制度が難しい、権限が地方にない(お願いの対象)〜制度の欠陥 ・鉄道事故調査〜専門機関なし  →改善への利用客の声が事業者側に届かず、一向に改善・是正されない  (事業者が一方的に都合の良い声を聴取するシステムは存在)  〜〜情報公開や合意形成への取組みが全くなく、高圧的態度に終始 →鉄道という「民間会社」の「経営判断」ーー障害となる  ー→これは、現行鉄道(監督)制度や国鉄改革の不備が原因である ★本来、鉄道事業者はもっとマイカーに対抗できる魅力を備えた交通機関へ脱皮すべき  2、「鉄道利用者会議」を旗揚げしての所見 ■「全国鉄道利用者会議」:現状打開を目指し結成、NGOとしてオンブズマン・提言活動 *目的:「急激な変化を遂げる鉄道の、今後のあるべき交通体系としてのよりよき活用を目指し、利用者の立場から考え、総合交通体系の視点での政策提言・利用促進策の提案を各方面へ呼び掛けていくことを、目指す。」 *本会のこれまでの活動と今後の予定 @1997年4/1 (分割民営化10周年)に東京で設立集会・講演会を実施〜参加40人程度 A1997年5/ 3〜5 の南部縦貫鉄道廃止時に、来訪者へ鉄道利用に関する意向調査を実施 B1997年5/22の環境自治体会議「脱クルマ分科会」(野辺地)で報告 C各地の鉄道の利用環境の変化(岩手・島根・東京・京都・北海道など)で出版 D1997年9/30〜10/1(横軽廃止・北陸長野新幹線開業時)に、全国からの来訪者へ鉄道利 用に関する意向調査を実施予定。 E運輸政務次官・経済企画庁への陳情(今後公正取引委員会、さらに株主総会も視野に)F東京地区などで、半日ないし一日のフィールドワーク実施し、問題箇所の指摘 G交通機関の変化(開業・廃止)、新たな施策の実施(事故)時に意見発表 *事務所:東京・関西・北海道〜〜あまり思わしくない反応〜〜前途多難 →E運輸政務次官への陳情:「利用者の声を十分に反映させた鉄道の復権について」 @鉄道事業法に消費者保護や第三者によるアセスメントの規定を求める A鉄道輸送における「着席率」概念の明確化(統計化) Bエネルギー多消費型のクルマや航空機重視からの転換、必要な行政改革 C「国鉄改革」の一部見直し(地域分割の方法など) D特定地域における鉄道運行車両改善の行政指導  →運輸省鉄道局の反応〜全くやる気なし(「聞いた」というだけ)  →経済企画庁国民生活局の反応〜権限がないので何もできない(不透明な行政指導) 〜制度への関心が薄く、規制当局への改善要請(陳情)は時代遅れだという認識 ■「鉄道問題は解決済」という認識←巷での鉄道に対する誤解・無理解  (地方自治体は蚊屋の外)ー→鉄道専門知識(技術体系・規制制度)の独占の結果  〜マイカーや航空機の拡大の中、「鉄道の復権」は掛け声倒れ〜地方では安楽死へ *国鉄改革10周年〜規制緩和〜格安航空会社ー→日本人の「過剰反応」 *政治(家)と鉄道の関係(政治批判と行政批判) *行政改革との関係(再重要課題のはず)ー許認可(需給調整)と中央集権ー *道路と鉄道との関係〜〜運輸省・建設省の「 100年戦争」〜〜止めさせる必要 →社会生活上マイカーを利用しないと損をする社会システムは、異常である(おかしい) 〜現在のライフスタイルを、クルマ依存形態から脱却できるか   3、交通・運輸分野の基本的特色と主たるアクター ■基本的特色: ・日常的(誰もが評論家になれる)でありながら、とても難しく・複雑 ーー特に制度(官と民の関係、規制・許認可・通達、沿革・経緯・利害関係など)  〜誰がやるのか〜所有と経営(運営)〜公共事業と公益事業(公共性と採算性)   乗車に運賃が必要(算定方法、適正運賃とは) ・大規模なインフラ(大土木工事)、車両・機材+発着施設(駅・港・空港)が必要 ーー専門知識が必要〜一般国民・住民が監視する制度に乏しい ・交通機関同志での競合〜利用者の選択〜マイカーの台頭 ・交通機関の持つ「負の効用」〜事故(大規模)・公害(環境問題)ーー影響の甚大さ ■交通・運輸を支える専門家集団(研究者+実務家)の特色: ◎交通経済学〜経済的得失を考え、費用対効果を追及しようとする  →★「自由競争」を標榜する彼ら自体が「参入障壁」を作り、研究・政策関与を独占 ◎土木工学〜土木工事ができるハードを作りたい習性 ●行政官〜権限・予算の拡大を狙う(縦割り・中央地方関係ー権限の有無、領域)  (→人材排出システムとの関係〜官僚養成・公務員試験制度(出題分野)との関係) ●政治家〜選挙民に気に入られたい〜過大な要求 ー→言論人や知識人を含む日本国内の世論に誤解や偏見が目立つーー鉄道などの総合交通体系論議が、「翻弄されている」 ■鉄道に関心を寄せるアクターへの限界〜鉄道事業者のフリーハンドを許す原因 →マスコミや鉄道愛好者は、意見発表をしない(「奉祝」報道、日本人のメンタリティ) ・「記者クラブ」発表など表面的な「当局情報」が多く独自取材(問題点の究明や有為な提言活動)が少ない。 ・知識を持つ鉄道文化人の態度〜事業者を刺激すると情報がもらえない、文筆活動優先 ・鉄道愛好者(ファン)の批判精神の方向性に関する限界〜組織化の難しさ  〜鉄道友の会(最大組織)の価値判断〜鉄道車両「ローレル賞」選考論議 →「国鉄問題」を語ると、すぐ「党派色」で見られる〜労働問題未解決  3、変化する鉄道に対する我々の主張 ★(総論):情報公開や監視機関(制度的、NGO)により合意形成を図ること  総合交通省への統合と総合交通特別会計、「総合交通監督庁」の創設 ●鉄道事業法(施行令・施行規則)の不備ー→すみやかに改正すべきである  ・軌道法との統合見送り(道路予算・建設省との関連を回避)  ・環境問題が端緒の、クルマ社会(エネルギー多消費型社会)からの転換の発想なし  ・相変わらず業界擁護的発想にあり、輸送サービスへの消費者保護の規定が全くない  ・アセスメントやPL法の規定なし〜「透明性・公開性・参加確保」がほとんどない  ・各種審議会の情報公開、参加の確保、地方への移管、委員選任方法の公開  ーー運輸審議会・運輸政策審議会など  ・「規制緩和」の意味を取り違えている  〜規制でも、需給調整・免許制度や最小限の安全性確保ばかりが強調されている   鉄道事業者は公益事業であるのに、特に特殊会社「JR」の監督権限が著しく弱い  〜「民間会社」の裁量が過大解釈されており、運輸省の必要な監督権限の放棄である   こうした規制は「政治力の排除」とは別次元の、公正な経済社会の運営に不可欠  →本来的な監督権限を自ら放棄するような運輸省ならば、不要である →(対策) *特に地方の中・長距離線区の通勤車両について、線区別の「着席率」を公表する *「ロングシートやトイレ・デッキ(寒冷地)なし」車両については、時刻表に明示 *新型車両導入やダイヤ改正、駅舎の改築・レイアウトの変更等については、  〜計画段階から情報公開しアセスメントを行ない   利用者の意見を聴取・反映させる確固たる場(制度)を設ける *鉄道事業者に改善へのインセンティブがない場合は、追加的コスト分は地元が負担できるようにする(地方行財政再建特別措置法の特例拡大、または改正) ・県別にJR責任担当部局設置を指導する(JR青森支社がない等を解消) *(当面)地方運輸局に利用者(苦情処理)専門担当官、苦情 110番を設置する ●監督官庁組織の不備  〜もっと行政改革論議を広範に行ない、大胆な組織改革を断行すべきである ・縦割り行政〜運輸省・建設省の「 100年戦争」がいまだに続いている ・中央集権体制〜本省・地方支分局(出先機関)が許認可権・補助金を握り過ぎ  地方(都道府県・市町村)の権限が無さすぎ、地域事情への対応が阻害されている ー鉄道行政制度の不備という問題意識が全く感じられない  行政改革会議の論議ーーむしろ「国土・環境・交通省」と整理されている  〜単なる「局」の寄り合い所帯にならないように、道路と鉄道の関係を考慮すべき →(対策)〜目指すべき真の「総合交通体系」樹立のため、必要な改革 ・(仮称)「総合交通基本法」の制定(効率的運営も射程に入れる)  〜効率的な「総合交通5カ年計画」を策定し、迅速な見直しが可能な体制とする   交通機関別「5カ年計画」は廃止する ・(仮称)「鉄軌道活性化法」〜踏切除去(立体交差・曲線改良〜用地・予算措置等) ーこれに伴い(政治的に泥まみれの)「全国新幹線鉄道整備法」を廃止する ーこれに伴い、特殊法人の鉄建公団・鉄道整備基金・道路公団等は統廃合して、  (仮称)「鉄軌道・道路管理運営公団」に改組する ・上下分離を徹底し、インフラ部分は公的存在にし、イコールフッティング問題を解消させる  運営部分は民営化も視野に効率的運営に ・道路特定財源の一部見直しと、鉄道インフラ部分の確固たる予算の確保 ・「(高速)道路なら作ってあたりまえ、鉄道ではダメ」という発想の変革 ・運輸省・建設省の相互人事交流を早急に実施する(特に鉄道局と道路局) →独立した監督・監視組織の創設  ー地方ブロック別に、権限を持った(仮称)「地域交通監督事務所(庁)」を設置し、(仮称)「地域交通監督官」登用制度を導入する、等 ・鉄道事故調査に関する第三者専門機関の創設 →「国鉄改革」の一部見直し ・特殊会社JRの性格、責任の範囲をもっと明確化させる ・不採算地域・路線への公的助成方策の検討(地方が必要なら、地行法特認の再検討) ・分割方法の再検討〜競争関係が生れるような再分割を検討する  〜JR東日本が「東北地方」の事業者として妥当か検討する(子・別会社化も検討)  (基本賃率、内部補助、株主分布との関係から) ・上下分割をもっと広範に進めるべきである(第2・3種事業者、道路用地の活用) ・再建管理委員会や国鉄再建・改革関連法の成立過程の情報公開 ・清算事業団用地の区分けに関する全国的な情報公開と地元自治体への情報提供 ・国民的合意形成のため、国鉄長期債務処理方法の検討過程についての情報公開