武田論文集ー北海道支部−(北海道庁交通対策課離島航路改善対策事業報告書 1995)  離島航路改善推進への処方箋  ー天売・焼尻航路を事例に交通・地域政策面からのコメントー                   武田 泉(北海道教育大学岩見沢校講師) 1、離島に関する地域(振興)政策上の課題(全国的視点)  1)地域振興上必要な離島政策の観点  今日地域政策は、国土の均衡のとれた発展と地域の振興という観点から進められ、同時に政策課題として生活困難の是正が強く求められている。中でも離島に関しては、その自然条件に由来する「島しょ性」が指摘されている。これは、地域的特性として僻地性のみならず隔絶性が、厳然として存在していることを意味する。そのような離島が直面する厳しい現実を、いかに緩和することができるかが最大の政策課題と言えよう。  ここで必要なのは、多様な形態が存在する離島を、一応の目安として類型別に整理して必要な施策を講じていくことである。この離島の類型として、国土庁が策定した「離島振興計画」で取り上げられた分類が一般に認知されている。離島航路についても運政審答申(長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方針)の中で、その整備のあり方は国土庁による類型を基軸としてなされている。すなわち、当該離島に見合った方針のもと、個別に施策を実施すべきとされている。  国土庁による分類では、離島をまず本土近接型と隔絶型とに分け、次に後者を群島と孤立島とに分ける、などとされている(表1・2)。   表1 離島分類とその理念(「離島振興計画」国土庁策定による)  離島ーー本土近接型ーーーーーー内海型                 外海型      隔絶型ーーー群島ーーー主群島                 属群島            孤立島ーー大型                 小型   表2 離島の分類と航路・本土との関係(「離島振興計画」及び運政審答申による)       本土との距離 航路の安定性 本土との生活交流 対策 内海本土近接型離島 短い  静穏   通勤通学可  本土との海運整備 (本土との時間距離1時間以内、航路平穏)      架橋の可能性 外海本土近接型離島 短い  不安定  通院可    本土との海運整備 (本土との時間距離1時間以内、航路不安定)     架橋の可能性 群島型離島     長い  不安定  不可    主島に核(都市)育成                          属島・本土へ航路育成、                          属島と架橋可能性(航空整備) 孤立大型離島    長い  不安定  不可    島に核(都市) (人口5千人以上)                本土への海運・航空整備 孤立小型離島*   長い  不安定  不可    島に日常的中心育成 (人口5千人以下)                (本土への海運・航空整備)  (注):離島交通では航空路の有無で隔絶性に差異が生じる。    *:北海道内の離島は全てこの類型である。  2)交通政策の一環としての離島航路政策  離島航路など交通運輸事業は、企業性と公共性の双方が要請される公益事業として分類されており、その運輸事業者は免許制度・補助金など許認可行政の対象として認識されている。このため中央政府(運輸省)・地方政府(都道府県・場合によっては市町村)と事業者との関係には、密接な連係が期待される局面も少なくない。事業形態や経営状況などに関して、事業者には交通機関としての改善と同時に経営の改善が求められてきており、そのため行政機関による支援など、政策運営がなされてきた。  1980から90年代における離島航路政策としては、「船の新陳代謝・世代交代の時代」であったと特徴付けられる。すなわち、これまでの老朽船の代替に伴なって、大型船(フェリー)の新造で自動車航送を本格化させ輸送力を増大させたり、高速船の導入により時間短縮や便数増強、さらには船ぐりの改善により事業者の経営改善をも狙ったのである。この背景として、バブル好景気の時期において、全国的な観光需要の拡大に対応して、離島観光でも内容の充実が求められた。中でも、日帰りも想定した島めぐりを可能にすることが誘客上不可欠と考えられ、高速船導入に踏み切ったと言えよう。このことは、観光シーズンの来訪観光客を想定した施策であり、便数増強・時間短縮に一定の成果をもたらした。  ただし道内では、当該離島に航空路が存在する場合(例えば、東日本海フェリーによる利礼・奥尻のケースでは、エアー北海道により航空機が最寄(もより)生活圏中心都市まで就航)には、高速船導入は実施されていない。これらの離島の場合、公共投資は港湾整備と並行して離島空港の整備を新たな制度の導入を含めて実施しており、むしろ航空路線をより充実させようとする方向性も感じられる。こうした、離島における航空路と高速船導入の関係は、必ずしも政策的にリンクしているわけではない。事業者側が時間短縮効果と海空のコスト差の関係から踏み切らなかったのか、もしくは政策的配慮の一環として実施されなかったのかは、今後の政策当局による見解に待たなければならないであろう。 2、北海道天売・焼尻航路におけるケーススタディ  1)道内における離島の特色ー近年の話題からー  まず北海道内の離島の特色として、そのほとんどすべてが孤立小型離島に分類されることが指摘される。このことは、島が実距離以上に遠く(距離感が遠く)感じ、それだけ条件が厳しいことを示すものである。とりわけ、秋から冬にかけて季節風が強いことは、欠航を増加させ交通機関としての安定性を悪化させてしまっている。   表3 道内離島航路における年間欠航実績(北海道資料による)    利尻礼文:20〜25日    奥尻 :30〜40日    天売焼尻:60〜70日日、 100日(高速)  とりわけ日本海北部に位置する天売焼尻では、年間欠航実績が延日数で2か月以上、高速船では3か月以上にも達しており、住民生活に与える影響は少なくない。  では次に、道内離島における近年の話題・論点を拾ってみると、以下の様になる。  まず第一に、離島医療という切実なテーマが挙げられる。島内に診療所しかない場合、緊急時において本土の病院への急患搬送が果たして可能かが、問題となっている。試験的にドクターヘリが飛んだこともあったが(奥尻島)、悪天時のヘリコプターの墜落事故も過去に存在しており、海上保安庁の巡視船に頼るとすると、搬送に半日以上掛かるとされる。このため天売焼尻地区では、これまでは患者側で係留している漁船を探して本土側まで運んでもらっていたが、謝礼として通常3万円、しけの場合だと10万円(中型船)を船主に渡していたという。このため羽幌町では、従来漁船の借り上げに対し経費の半額を補助し患者・船主双方に支払う方針を固めた。この場合、漁船の目的外使用に当たり事故の際の責任問題も生じかねないため、島民で漁船搬送のための団体を組織し、そこに補助する形にするとの方向にある。類似する事例として、長崎県大瀬戸町の松島(4km沖合)からの患者搬送では、昼間1万円、夜間1万5千円を漁船の船主に支払っているという。この島へは朝7時から夜10時まで町営定期船が運行しており、漁船出動は年に数回程度とされている(北海道新聞1996年3月7日付)。天売焼尻地区では、この松島よりは諸条件が厳しいと言え、この制度に要する予算が増幅することも十分予想される。さらに、激しいしけで漁船も出向できない場合どうするかという声も、地元町議らから出されている。  第二に、離島が「島しょ性」のために直面する、様々な日常生活上の困難が指摘される。これには、生活必需品における離島価格の存在(高価格、価格差)、情報・文化格差の是正(事例としての礼文における町営書店の開業)、国民の権利行使への障害(選挙の繰り上げ投票と悪天時の無効票問題)などが挙げら、これらは今回実施されたアンケートでも触れられていたものである。  第三には、災害対策が指摘されている。近年北海道では、地震などの大型災害に遭遇したための話題といえよう。とりわけ、地震・津波対策では予想を越える被害が出たため記憶も生々しく、さらに地震空白域が本道近辺に存在している。このため、防災対策は大いに議論されるべき事項であり、具体的には防潮堤の建設、集落移転、防災計画や緊急時における海上輸送計画の立案などが挙げられる。また災害復興に関連して、奥尻では閑散期において交通・宿泊面を中心に復興需要をも創出している点も見られる。  これらはいずれも、離島における住民の厳しい生活実態を反映した内容と言える。現状の打開を目指して様々な試みが取り組まれているが、現実にはなかなか解消が困難ではないかと考えられる。  さらに天売焼尻地区の地元では、離島を抱えた地域全体が近年どのような変化を遂げたであろうか。まず、地元地域では本土側の農林業、島での漁業など、基幹となる第一次産業は軒並み衰微の方向にあり、それに伴い過疎化により人口の流失も顕在化している。例えば農業では稲作の北限地帯に当たり、従来から潅漑用水の建設や農地開発が行なわれてきたが、減反によって農業自体が衰微しているのが現状である。交通面でも、国鉄羽幌線も既に廃止されており、転換交付金によるターミナル・待合所の設置や国道の改良・整備推進など、様々な政策的な援助により、地域交通を何とか再編しようとしてきたところである。  そうした状況に対する打開策としては、観光の充実が最大の方策となっている。天売焼尻両島に関しては国定公園への昇格であり、本土側でも連動させた施策としてオロロンライン(国道)を軸とした管内市町村タイアップによる統一宣伝・観光ルート化を推進し、それにちなんだトライアスロンやマラソン大会も開催されている。羽幌本町には、温泉・ホテルを備えた総合観光施設「サンセットプラザはぼろ」がオープンしている。  また既存産業の振興策として、両島での漁業や焼尻島でのめん羊肥育なども手掛けられている。これらの特産物を活用したイベントとして、天売水産まつり(7月第1週)や焼尻めん羊まつり(7月第2週)が行なわれており、後述の団体観光ツアーにおいても島の観光資源の一つとなっている。本土側でも、観光客向けに若者向けのコンサートや即売会が行なわれる「サンセット王国まつり」(7月第3週)も企画されており、夏季にはイベントが目白押しの状況となっている。こうしたイベントは、マチおこし組織ともリンクしており、「サンセット」大統領による誘客、島でのミニコミ誌の発行、観光資源にもなりうる自然保護・鳥獣保護対策の展開(オロロン鳥・ウミウ・オンコの木)など話題作りの模索されている。それら情報発信の手段としては、インターネット上にホームページを開設するなど、役場サイドのみならず地域の中学校においても、話題作りが取り組まれている。そして島民意識に関しても、心理的にも本土との間の段差があるとされ、両島間においても微妙な意識のズレが生じることもあるという。こうした状況は、統一的な施策を実施していく中で解消を目指していくものといえる。  2)天売・焼尻航路の歴史的形成過程  北海道の離島航路には、歴史的に次の2つのタイプが存在する。1つは道庁命令航路を起源として展開してきたもの、もう1つが逓信省命令航路(郵便船)として発達してきたものである。  前者は、歴史的に早期から発達したもので日本海を回航する航路である。その回航ルートの特徴は、北海道本土側の拠点都市と複数の点在する離島とを長距離にわたって連鎖的に結合しており、江戸時代から海流とともに日本海を縦貫する、「樽回船」や回漕屋の活動とも連動するものであった。かつての場所請制度や運上屋とも関連し、海産物輸送のための重要な交易ルートとして発達した。近代以降はまず1883(明治16)年、政府は共同運輸会社に、道央(小樽)から現北方領土を含めた北見国への回航を命じる。その後、この北見曽運会社による航路は道庁命令航路として補助対象となり、小樽〜雄冬間を手始めに小樽〜遠別・天塩などと順次延長していく。この過程で、小樽から目的地への中途で各離島に立ち寄るようになり、利尻礼文・天売焼尻にも定期的に船が寄港することになる。とりわけ、にしん漁全盛期となった昭和10年代においては、小樽〜利礼航路だけで3社競合となるなど、活況を呈した。しかし、第二次世界大戦の影響もあって、こうした航路の活況は長続きせず、結果的に小樽藤山汽船(冬季航路から参入)だけが存続することになる。また輸送形態としては、海産物輸送のため帰り荷が少なく輸送効率が悪い、水揚げ高の減少など、採算裡な経営ではなかったとされる。さらには、北海道本土側の道路整備の進捗などにより、こうした航路自体の存在意義も次第に薄れていった(図)。  一方後者は、最も近い北海道本土側の母都市(現在の最寄(もより)生活圏中心都市)と離島とをなるべく最短ルートでダイレクトに結ぼうとするもので、比較的短距離の航路である。これは、離島における生活物資・日用品の輸送を第一に考え、郵便船として発達してきたもので、制度上逓信省命令航路という位置付けの航路である。こうした航路は、歴史的に前者の回船型航路に遅れて登場するが、現在の道内離島航路では、天売焼尻(羽幌沿海)をはじめ利礼・奥尻(東日本海)とも、この郵便船タイプを起源とするものが主流となっている。  天売焼尻航路の場合、その運営は逓信省命令航路として苫前両島定期船会社によって創業され、その後両島運輸鰍経て、現在の羽幌沿海フェリー鰍ヨと連なっている。この航路は1事業者による単一航路で、運営にあたる事業者は地場資本であり、株主も地元の個人が中心となっている。現在はほぼ海運専業であり、使用船では木造船から公団船へと、長らく天羽丸が就役してきた。根拠地となる北海道本土側の港は、当初苫前港だったが、今日は羽幌港となっている。  こうした歴史的経過を持つ道内離島航路だが、近年の動向としては北海道本土の交通途絶地域への航路である積丹や雄冬航路が廃止され、さらには前者の回船型航路である小樽〜利礼航路も不採算を理由に廃止に至っている。その結果、現在も存続しているのは、郵便船を起源とする東日本海フェリーと羽幌沿海フェリーの2社である。  これらの航路では、近年新造船(フェリー・高速船)の投入により大型化が図られている。天売焼尻航路の場合、1989年にはフェリーおろろんが建造され、さらに1992年には高速船サンライナーも登場するなど、複数船化・大型化・高速化が図られている。こうした使用船舶の新体制の中で、事業運営や輸送サービスがどのような現状にあり、どのように評価されているのかが肝要である。これらについては、以下で述べる。  3)天売・焼尻航路への利用者からの要望  今回の離島航路対策では、島民等利用者からの航路への要望等についてアンケート方式で質問しており、その結果からも対策の検討を行なった。これらは、運航ダイヤ面・高速船の活用面・観光客への対応面に大別される。  *運行ダイヤ面: ・ピーク・オフピーク時の季節変化が著しい。中でも季節波動への対応として、運行ダイ ヤが夏と冬では大きく異なる点で、利用がしにくい。 ・とりわけ、夏の観光シーズンである繁忙期に、地元住民の利用はかなりしにくい、との 指摘が出されている。 ・また、島を出発地とした場合、日帰りがしにくいとの指摘が少なくなかった。ダイヤ上 フェリーを利用した場合、羽幌本町での滞在時間は2時間しかとれず、もしくは泊りが けとしないと用が済ませられないことになる。このため、朝の島発のフェリー便を1時 間繰り上げてほしいという要望が掲げられていた。 ・その上他の交通機関との接続の悪さも、数多く指摘されていた。特に、札幌行き都市間 バスの発車直後にフェリーが到着し接続しないことなどへの不満も指摘されていた。 ・フェリー・高速船とも欠航しやすく、特に冬場の天候調査の方法を改善したらどうかと の声もあった。  *地元住民と観光客の関係: ・夏の繁忙期対策としては、ピーク時を中心に、地元住民より観光客が優遇される傾向が あり、島側の発券窓口が相当混雑することが、地元利用者にとって大いに不便だと指摘 されていた。  *高速船: ・また高速船については、想像以上に揺れが激しく、フェリーも含めて冬は欠航しやすい とされていた。 ・その上、賃率が高く、運賃・車の航送料その他が高価であることは、利用する上での最 大の不満とされていた。このため、現在の島民割引証との関連で、割引の方法の拡充も 期待されていた。  *来訪する観光客の動向: ・かつての秘境が観光化・大衆化がされ、航路に対してはただ運べば良いというのではな く、アコモデーション(船や港の接客設備・施設)への要求が高まっているといえよう。とりわけ来訪客層は、以前とはかなり変化している。このため、かつて中心だった個人 客から、団体客でもとりわけ札幌発が増加してきたことが挙げられる。  (例)Hトラベル社レジャーバス(札幌発会員制団体旅行)のケース  Hトラベル社は、貸切バス事業者の子会社である。同社では、余暇時代に対応し北海道の自然資源を活用したレジャーを、会員制バスとして登山ツアー、釣りツアーなどを実施している。こうした主催旅行は、コースのバリエーションや価格面で定評があり、固定客もついており、年間で同一の客が多数回参加すると、サービスとして無料招待旅行の特典もあるという。天売・焼尻関係では、1996年の場合下記の7タイプのコース(いずれも1泊2日)が組まれている。  表4 団体旅行コース中での航路の利用形態(Hトラベル社)  ツアー名       航路の利用形態〜往路(島間)復路  実施回数(備考) @「天売・焼尻まんぷく島めぐり」  〜F(F)F     5月に3回 A「野鳥の楽園、天売・焼尻島探勝」 〜F(F)F    5〜6月に4回 B「夢の島、天売・焼尻めぐり2日間」〜F(F)F    6〜8月に17回                   (時期により高に変更) C「自然謳歌、焼尻島の花園散策」  〜F(F)高    6〜7月に5回 D「焼尻島沖の船づり」       〜高   高    7/14に1回 E「天売島水産まつり」       〜高(F)高    7/6に1回 F「焼尻島水産まつり」       〜高(F)高    7/14に1回    (凡例)F:フェリー、高:高速船、( ):島間の利用、を指す ・スケジュールのパターン(H社パンフレットより作成) 1日目:札幌朝出発ー(貸切バス)ー羽幌13:20 〜(フェリー)〜天売/焼尻島   …島内散策(泊;両島の旅館) 2日目:天売/焼尻島10時代〜(フェリー)〜もう片方の島…島内散策  〜(高速船/フェリー)〜羽幌ー(貸切バス、増毛休憩)ー札幌帰着18〜21時帰着 ーー価格は2万4千円代(探勝型)〜3万2千円代(釣り型)   時期は5月(探勝型)から始まり、6〜8月がピーク(自然観察・釣り・イベント型)   ツアーのテーマは、探勝・自然観察・釣り・イベントである。   前2者が主としてフェリー、後2者が主として高速船を利用した旅程になっている    〜高速船就航によるダイヤ増強で、ツアーにバリエーション(変化)を持たせるこ   とができるようになったと言える。   往路(1日目)では、7コース中4つのコースがフェリー利用   復路(2日目)では、7コース中3つのコースがフェリー利用  このようにHトラベルでは、レジャーバスに力が注がれている。また、同社の拠点が増毛にあり、途中休憩場所となっていることもあり、この両島ツアーは今後重点化するものとも考えられる。航路を考える上では、こうしたツアーの価格構成要素、すなわち全体のツアー料金に占める航路団体割引運賃の占める割合がどうなっているか、割引率はどの程度かなどについて検討する必要があろう。  *その他 ・羽幌港とバスターミナルのアクセス:  車や貸切バスを持たない一般個人旅客にとっては、この航路の利用しづらいという指摘 もなされており、アクセスのための交通手段整備が必要と言えよう。 ・また、両島産の漁貝物の迅速な輸送ができないという声もある。例えば、現行では保冷 車の受け入れや輸送上の梱包対策でも、改善の余地があるのではとされている。 3、天売・焼尻航路への若干の提言  ここで、これまでの検討結果や指摘内容を基に、若干の提言を試みてみたい。  1)運航(ダイヤ)面  最大の課題は、現状では繁忙期と閑散期の差が著しく、地元住民に対して観光客優遇を印象付けている。このため、繁忙期と閑散期の差を解消することが経営上得策だが、現実には困難な状況にある。今日、使用船の世代交代と観光対策については一段落付いており、今後は島民生活の福祉のための対策と運航ダイヤの改善が必要と考えられる。  若干の対策で可能な対策としては、島内における発売窓口や船室の工夫を行ない、繁忙期(夏)においても島民が安心して利用できる環境を確保する対策がまず必要である。次に、夏の繁忙期前後の各1か月程度は移行ダイヤとし、便数をもう少し確保することが望まれる。  一方、閑散期における便数の増加対策としては、新たな船の投入や制度の変更が伴う。病院の診察日など島民の予定・スケジュールに合わせた形で、限定した不定期便が設定できないか検討する必要がある。この際、海上タクシー的発想で前日までに島民から申込む形態のディマンド方式の可能性も検討の余地があろう。この船にどんな船を活用するか(フェリーか小型高性能船舶かなどは、他の事業者からのレンタル・傭船等や可能性・方法を含め、今後の検討課題である。また、港へのアクセス交通手段については、現状では車や貸切バスで来訪しない一般個人旅客にとっては利用しづらいので、地元バス事業者との連係のもと改善する必要がある。さらには、運航ルートとして、天売・焼尻両島〜羽幌航路の他に、両島〜留萌(中心地)や天塩(利礼航路とのジョイントで観光誘客)との航路も高速船の活用や不定期便での設定を含めて可能性を模索してもよいのではないだろうか。むろん実施に当たっては、経営・採算面の検討は不可欠であることは言うまでのことはない。 2)運賃・事業運営面:  島民による当該航路への最大の不満は、賃率が高いことである。このため、経営努力によって当面値上げをしないこと、島民割引や各種割引(往復・家族・周遊)の拡充して利用しやすくすることが強く求められる。また、団体のパックツアー客以外の個人客にも割安感のある企画商品(バス事業者と連係した周遊券)の発売なども期待されるところである。高速化と便数増加が実現されたなら、今後漁貝物の宅配(ふるさと小包)を可能にするような必要も考えられよう。  次に、航路事業者に対してどのような付帯事業展開が可能かという面が指摘される。民営の交通事業者が付帯・関連事業を行なうことは、今日では常識的にもなっている。とりあえず、観光サービス・エイジェントなどについて、単独では困難な場合は地元のバス事業者と連係して事業が可能かどうか、その可能性を検討する余地があろう。とりわけ今日、地域情報の情報発信への重要性が叫ばれている。航路事業者は当該離島の情報にたけているはずであり、方法を考えれば、さらなる情報提供として、全国的な旅行情報誌(離島情報誌)へのPRや各種マスコミ(新聞・テレビ・ラジオ・雑誌など)の取材目的の来訪が可能となる下地を有しているとも考えられよう。 3)政策当局の対応と支援方策  まず、政策当局に対しては政策の方向性として、諸施策の実施により道内の「孤立小型離島」をできるだけ機能上「外海本土近接型離島」に近付けるよう、「島しょ性」の改善に努める必要がある。手を付けるべき施策の実施には、さしあたってかなりの困難が予想されるが、情報化社会に対応させることが指摘される。例えば、島内に情報拠点(マルチメディアステーション)を作り、平常時は観光PRや島民の教育用・実務用として活用し、緊急・非常時においては、連絡用も兼ねさせてはどうか。現在自治省の補助事業や郵政省の「自治体ネットワーク施設整備事業」への指定、島内外向けのコミュニティケーブルテレビ(CATV)など、様々な方法の活用が考えられる。この場合、公共空間として港のターミナルを改築・整備する必要がある。  次に観光誘客面では、これまでの従来型の単なる観光ではなく、自然・風土・文化を体得できるような形態へ移行させる必要がある。近年、欧米から輸入され、話題となっている自然や地元地域と密着した形態の「エコツーリズム」の実施が検討されるべきである。そこでは、自然(例えばオロロン鳥)とのふれあいや解説のためのプログラムの開発と人材育成が不可欠であり、島居住者へ新たな就職先の確保への契機にもなりうると考えられる。この場合、航路事業者の役割としては、来訪者への「自然としての海や離島航路の体得」であり、社会教育的色彩の強いものとなるであろう。例えば1996年6月には、国際海鳥フォーラムに関連して、天売島への体験ツアー(フォーラム、海鳥観察クルージング、ウトウ帰巣状況ウォッチング、早朝バードウォッチング)も企画されている。中でも、「海鳥観察クルージング」は、乗組員による海鳥観察体験の披露なども含め、航路事業者ならではの情報提供への期待が高い企画と言えよう。  さらに、災害対策もきわめて重要である。近年の北海道周辺での大型地震(北海道南西沖地震等)や、本年2月に発生した豊浜トンネル岩盤崩落による悲惨な事故などからの教訓は、離島対策でも特に船舶の役割がきわめて重要であることを物語っているといえよう。まず災害発生で、北海道本土側でも沿岸部の道路が寸断・不通となった場合、「島しょ性」は強化されたことになる。こうした場合、迅速に海上輸送ができるような体制の形成が強く望まれる。とりわけ、救助や救援に関して行政が対応する上で、異なった行政領域間でも円滑な調整が図れるようにしておく必要がある。とりわけ行政や航路事業者に対しては、地震津波対策として災害時対応計画・連絡体制・船舶の応援のあり方など、マニュアルの作成と適切な初動訓練が必要となってこよう。  また、本土側の港所在地に対しては、島へのゲートウェイ(玄関口)機能の充実策としての対応も求められよう。本土側の港周辺も、航路の存在が振興面で役に立つような相互作用が生じるように誘導することも必要ではないだろうか。具体的には、本土側から島への訪問・交流の拡大、島民への安価な宿泊施設の提供や、諸施設の立地について利便性に即して配置することなどを行なう必要がある。 4)事業者・行政と利用者との関係  最後に今回、連絡会を構成したのは、運輸省(中央政府)・北海道・羽幌町(地方自治体)・羽幌沿海フェリー梶E北海道船舶整備梶i事業者等)である。検討結果の具体化にあたっては本連絡会を拡大し、利用上の要望・苦情処理のため利用者(住民・観光客・観光エージェント等)の代表をオブザーバーではなく、適宜メンバーに加えた形で、今後は検討会を常設化させていくことも必要ではないかと考えられる。  もう一つ、今後の道の離島政策として掲げておきたいことに、北方領土の返還が実現した際、当該地域の経営をどのように考えるかという、ビジョンに関する問題である。北海道にとって、新たに「群島型」離島を抱えることになる。この場合、根室を起点に航路を設定することになるが、厳しい気象条件の他、国境という海上保安上のファクターも考慮する必要がある。こうした場合、航路の設定方法(フェリーや高速船の投入方法)、事業者の参入形態、行政の支援のあり方など、今のうちから関係者の間で検討しておいたらどうだろうか。返還の合意形成には、具体案の提示が是非とも必要であり、中でも離島航路はきわめて重要と考えられる。その場合、新たな航路は、道内事業者による共同出資会社とし、支援のため北海道船舶整備鰍北海道北方航路開発梶i仮称)を改組するなどの方策も考えられる。