1997年4月1日

 

       日本における真の鉄道復権を目指して


          ---分割民営化後10周年にあたっての
          日本の鉄道交通の閉塞を打開するための行動計画---

 

                      全国鉄道利用者会議(準備会) 代表 武 田  泉

 

   1997年4月1日、国鉄が分割民営化されてちょうど10周年を迎える。確かに「国鉄改革」は、今日最大の政治課題となっている「行政改革」や「規制緩和」などを先導した側面があり、総論では今日でも高く評価されている。大都市圏の大手私鉄では鉄道を機軸とした広範な事業展開があり、世界でも唯一「自立採算」が可能となっている。このため、当時長期債務を抱えるなど様々な問題を抱えていた国鉄を、 大手私鉄をモデルに改革しようとした。その結果として、「鉄道職員の接客態度を 中心とした利用者サービスの改善」をはじめ、「鉄道事業における企業的経営セン スによる活性化」や「関連事業を含めた生活総合産業を射程に置いた事業多角化」 など、改革の成果として一応の改善を見た。それは、国鉄終末期と新会社(JR)始 動期がバブル好況期にちょうど重複したという事情を考慮しても、当時の成果は予 想を上回った。その結果、現に東日本旅客鉄道(JR東日本)に引き続き、西日本旅 客鉄道(JR西日本)も株式の上揚を達成しつつある。その上、各JR本社所在地など の大都市部においては採算性も高く、かつ競合路線も抱えているため、新規事業の 展開や新技術の積極的な導入などにより、鉄道事業は改善傾向にあり、国民各層の 支持を集めているかのように受け取れる。しかし、大都市圏における「殺人的ラッ シュ」は一向に緩和される気配もなく、こうした表面的な改善をもって、ただちに 我が国全体の「鉄道事業の復権」として考えてよいものであろうか。
 国鉄改革によって「分割民営化」された結果、地域別に独占的に営業する特殊会社 ・JRが誕生したが、地方の採算性の低い地域の鉄道運営は、バブル経済崩壊後「効 率化」の名のもと、遺憾ながら大都市部とは全く異なった方向へと意図的に向けら れてしまった。たとえば鉄道車両では、表向きの「都会型新型車両導入による混雑 緩和」という触れ込みが、実は「立席定員を前提とした着席率(人権)を無視した 詰め込み車両」であったり(東北・ 北海道・ 新潟・北関東他)、「トイレなし車 両」の導入によって快適な鉄道による移動が阻害され、尿意を我慢し切れなくなる など生理現象にまで影響を与えているという事例(山陰地方など)も報告されてい る。これは、まさしく人権問題である。さらには、無料で利用できた駅待合室の撤 去や列車運行のワンマン化、大都市圏における自動改札の強行導入に至るまで、全 国各地で利用者をないがしろにした施策を進めながら、一方で改善を声高に宣伝し ている。そうした中、JR支社は本社に対して十分な予算要求をせず、地方の利用者 に我慢を強いるというサービスの低下がその内実であり、まさに「上げ底の改革」 と言わざるを得ない。とりわけ鉄道事故発生時の対応では、国鉄時代とは異なり第 三者機関に類するシステムは皆無に等しく、自己原因を真剣に究明しようとするよ りは、むしろ身内をかばうかのような姿勢に終始することさえ存在した。このため 利用者へ納得の行く説明や情報公開をする意識は皆無に等しく、一方的に自らにと って都合の良い当局発表を流し、一般利用者を欺き続けている。そうした、JR各社 をはじめとする乗客を一向に顧みない後向きの対応に対しては、心ある鉄道利用者 の不満は極度に鬱積している。
 現在のJR各社は、収益や効率を追い求めることでは有力株主への経営責任を果たそ うとしてはいるが、もはや一般利用者を重視しているとは言い難い。効率性を重視 するあまり、鉄道事業者としての公共性を歪めている。儲かる地域(線区)とそう でない地域(線区)を極度に峻別することは、地方分割の理念に逆行するばかりか 国土全体に悪影響をもたらす。さらには、環境重視社会の到来・クルマ社会の閉塞 状況を目前にして、日本の鉄道事業の将来は、いかに惨憺たる方向にあるかを露呈 しているのである。
 こうした鉄道事業者の態度は、まさに「国鉄改革の負の所産」である。すなわち、 国鉄改革では「政治家の介入」を防ぐ目的で、鉄道事業者の監視機関を設立しなか った。このため、監督官庁たる運輸省をはじめ、行政監察局・地方自治体・各種団 体、さらには大部分のマスコミ・学者・知識人らは、JR各社を賛美こそすれども、 実態を重文に把握しつつ適切な改善を訴える行動は皆無に等しい。それは、密室に よる少数者による決定という審議会・許認可行政を象徴する構図である。他方国鉄 改革では、「鉄道事業法」は成立したものの、「軌道法」はそのまま温存されてい る。 つまり、運輸省(鉄道)対建設省(道路)の「100年戦争」は収束するどころ か激化しており、公共投資(特別会計制度)は依然として鉄道に著しく不利な状況 にある。さらには、長期債務の返済、清算事業団用地問題、新幹線問題など、棚上 げ・先送りされた諸問題も存在する。このような状況が続けば、日本の鉄道は「復 権」どころか「安楽死」し、環境重視社会にふさわしい交通体系を構築できずに、 日本国民は交通手段の構造的悪化に悩み続けることになろう。こうした構図は、ま さに世界の物笑いの種に他ならない。
 上記のような、国鉄改革後における日本の鉄道をめぐる諸問題に対して、われわれ はここに交通運輸問題NGOとして行動計画を発表し、 交通運輸分野における行政改 革として、以下のような具体的要求を提案する。

[要求事項]
1. 運輸省・ 建設省の「100年戦争」を止めさせ、 交通・運輸行政を一本化した「総合交通省」の創設と国鉄改革の部分的見直しを要求し、行政改革の中心テーマとなるように運動する。
2.現在、中央の本省が握っている許認可権限や計画権限を、地方分権の動きと連動させて要求する。特に、中央の少数者による不透明なトップダウンや、審議会・許認可行政による決定等に対して、情報公開(透明性・公開性の確保)を要求する。
3. 鉄道を監督する権限の強化・ 当事者能力の育成を働きかけ、現在の機能不全運輸本省・地方運輸局、総務庁行政監察局、鉄道(運輸事業)各社の苦情処理制度など)を改善を要求する。中でも具体的に、鉄道監視・監督の独立した専門機関として、「総合交通監督庁(行政委員会)」(中央)、「地域交通監督委員会制度」(地方)、及び「監督委員選考制度」の創設、を要求する。
4.上記の監視組織には、強力な権限かつ専門的な知識を有する、鉄道事故調査のための第三者機関を含めることを要求する。
5.総合交通体系の推進のために、鉄道のインフラ整備やガソリン税の算入を含めた「総合交通特別会計」の創設を求め、鉄道の適切な整備が可能となるような制度・政策の実現を要求する。このため、不必要な道路建設をやめさせ(現建設省道路局)、縦割りを排し地域的事情を考慮した、効率的・総合的な交通体系の実現、「クルマ依存社会」に対する国民的意識改革の場の提供、さらには総合的な計画アセスメントの実施を要求する。
6.これまでの、国鉄再建委員会や国鉄再建法の成立過程に関する情報公開を、強力に要求する。

[行動計画]
1.鉄道等交通体系の変化や利用上の不利益等に関する全国的情報収集
 (オンブズマン活動と「交通利用110番」の設置を予定)
2.鉄道など交通機関の変革、事故の発生、政策の変更などに対して「声明」の発表
3.鉄道を含めた総合的交通体系や制度・組織、政策立案に関する研究活動
 (本年、長野五輪関連の交通輸送体系の検証調査を実施予定)
4.鉄道を機軸とした環境に負荷の少ない交通体系の樹立を目指した提案・提言活動
5.「クルマ社会」とは一線を画した交通利用体系・計画実現のための世論形成活動
       以上