横浜市環境影響評価審査会 意見陳述原稿 2002.3.7 青葉区の武田と申します。私は全国鉄道利用者会議という団体の会員で、利用者 の立場から様々な鉄道計画を検証し、活動しております。私たちの会でよく問題に しているのは、鉄道事業について法的に住民参加が保証されているのは、都市計画 手続や、今回の環境影響評価手続の時ぐらいしかなく、鉄道計画そのものへの住民 や利用者の参加規程がないということです。今回は数少ない住民参加機会の1つな ので、鉄道計画自体への意見も含めて述べさせていただきますことを、始めにお断 りしておきます。 まず始めに、鉄道事業計画の目的及び内容について述べたいと思います。 今回の環境影響評価方法書には新百合ヶ丘〜元住吉間の事業計画しか記載されて いませんが、川崎縦貫鉄道は川崎市の骨格軸を形成するものとして、将来的には京 急大師線との直通運転や、羽田空港乗り入れも視野に入れているとの話も聞いてお ります。今回の事業区間が、全体計画あるいは将来計画の中でどのような位置づけ になるのかがわかるように、全体計画や将来計画を方法書の中でわかりやすく示し て頂きたいと思います。また、これまで何度か計画が変更されてきていますが、そ の経緯についても、十分な情報公開をお願いします。 というのは、この鉄道が、将来的にも川崎市内だけに留まる鉄道なのか、それと も市内のみならず羽田空港から多摩・相模原・八王子方面の都市を結ぶ将来計画な のかによって、鉄道の規格もそれにふさわしいものを適用すべきと考えるからで す。フル規格の地下鉄方式は、市内にとどまらない広域鉄道に適用することが望ま しい方式です。将来的にも川崎市内のみの計画なら、地下鉄方式ではなく、LRT いわゆる路面電車、又は路下(ろか)電車いわゆるミニ地下鉄にすべきだと考えま す。LRTや路下電車は、今や世界的に見直され、導入が進んでいますが、日本国 内に導入しようとする土壌がないのは、旧建設省運輸省の対立の構図やそれを背景 とする助成体系によって、道路と鉄道を一体的にとらえ、道路上に鉄道を引くため の施策が困難になっているという状況が考えられます。私たち全国鉄道利用者会議 では、LRTや路下電車の実現が、現状の制度や枠組みでは難しいものと考え、よ り地域に即した鉄道施策を実現できるようにと、「軽快鉄道法」の議論を始めてい るところです。こうした新たな枠組みが成立するまで川崎縦貫鉄道建設を凍結する ことも選択肢に含め、地方自治体は役所の前例主義だけでなく、新たな先進的な交 通政策を是非とも提案していただきたいと思います。 住民からは、この事業計画が過大であるとして、LRTや路下電車以外にも、今 ある鉄道の活用や、事業費の縮小をめざした代替案が提示されています。特に、新 百合ヶ丘の住民が川崎都心へ行く需要はほとんどなく、行く場合でも南武線を使え ば十分との意見もあり、地下鉄方式の鉄道の必要性が疑問視されています。住民か らの代替案とは、具体的には、 ・この鉄道とほぼ並行して走るJR武蔵野南線という貨物線がありますが、それを 旅客化すること。 ・南武線に快速列車を運行させるなどして充実化させること。 ・今あるバス路線に、バスロケーションシステムを導入するなどして充実化させる こと などの提案が出ています。 環境影響評価法第14条第7号には、方法書の次に作られる準備書に記載すべき事 項として「ロ 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検 討の状況を含む。)」との規定があります。この( )書きの部分は、代替案・複 数案を検討した結果がどうであったのか、代替案を検討しないならばその理由を記 述しなさい、という解釈がされています。住民からの代替案は、いずれも地下鉄方 式の代替案として、環境保全の見地からも検討に値するものです。事業を縮小する ことは、環境への影響も軽減化されることにつながります。具体的には建設残土の 量の削減、工事用車両台数の削減、開業後の鉄道が消費するエネルギーの削減など が考えられます。方法書では、どのような代替案を検討するのかが記述されていま せんので、これらの様々な意見を踏まえて、代替案の検討内容を明確にするようお 願いします。 川崎市の方では、川崎縦貫高速鉄道線研究会という組織を立ち上げ、市民参加で 事業の必要性や事業費の縮小などについて検討していくこととなっています。この 研究会は、専門家の委員会と市民参加の委員会とを別立てで行い、市民の方は川崎 市民に限定して公募が行われましたが、こうしたやり方は疑問です。専門家委員の 選定方法や、これまで土木工学の専門家だけで計画立案してきたことに疑問を感じ ます。 こうした情勢の下で、一方的に地下鉄方式での鉄道建設を前提として、環境影響 評価手続を進めることは、後に問題を残すことになると思います。環境影響評価を 行う前に、事業の必要性や、今ある鉄道の活用策など十分な検討を先に行い、今あ る鉄道を活用していくにはJRや民鉄各社との協議も進めていく必要があると思い ます。 建設工事の計画については、資材や機械の運搬に用いる、工事用車両の走行計画 を方法書で示すことが必要不可欠です。どのような車両が、どのルートを、いつの 時間帯に走行するのか、という計画です。環境影響評価項目の中でも、大気汚染、 騒音、振動、触れ合い活動の場の予測評価手法が、方法書に書かれた方法で妥当か どうかは、工事用車両の走行計画を見ない限り評価できません。特に、予測地点を どこに設定するかの意見を出したかったのですが、走行ルートの情報が示されてい ないので意見の出しようがありません。 また、地下鉄の場合は、大量の建設残土が発生します。建設残土の処理をどうす るのか、予定される量と廃棄場所についても示す必要があると思います。 次は、環境影響評価項目の選定についてです。 必要な項目そのものが抜け落ちているようには見受けられませんでしたが、地 盤、人と自然との触れ合い活動の場、そして川崎市条例の方法書にある地域交通の 3項目については、項目の選定条件に不十分な点が見受けられます。 地盤については、「切土工等又は既存の工作物の除去」に伴う影響だけでなく、 「鉄道施設の存在」による影響も予測評価すべきです。いくつかの地下鉄では、工 事中ではなく、鉄道開業後に地盤沈下が進行した例があります。 人と自然との触れ合い活動の場については、「鉄道施設の存在」に伴う影響だけ でなく、「資材及び機械の運搬に用いる車両の運行」による影響も予測評価すべき です。工事用車両の走行ルートが示されていないので詳細はよくわかりませんが、 触れ合い活動の場の近くやアクセスルートを工事用車両が通ることになれば、当然 影響を及ぼすことになります。 地域交通については、「資材及び機械の運搬に用いる車両の運行」に伴う影響だ けでなく、「鉄道施設の存在」による影響も予測評価すべきです。現在駅周辺整備 計画等を検討中とのことですが、これらの整備計画を計画立案段階の今から環境の 視点でも評価を行い、より環境影響の少ない計画へとしていくことが必要です。こ れこそが、本来のアセスメントの趣旨でもあります。 次は、川崎市条例の方法書にある、環境配慮項目の選定についてです。 電磁波・電磁界、エネルギー、地球温暖化の各項目は、環境配慮項目として選定 すべきであると考えます。 まず電磁波・電磁界については、電車は強い磁場の発生源であるので、環境への 配慮が当然必要な項目です。 エネルギーについては、方法書では選定しない理由として「電車の走行による効 率的な電気の利用とともに、自動車交通機関への代替として、環境負荷の軽減が図 られる」と書かれていますが、例え電車であっても、省エネやクリーンエネルギー 導入を進めることは必要だと思います。また、今ある鉄道の活用やLRTなど、事業 規模を縮小すれば尚更のこと、エネルギー消費量は抑制できますので、これらを比 較評価することによって、より環境負荷の少ない鉄道を目指すというのがアセス本 来の趣旨です。 地球温暖化についても、エネルギー消費量が減れば温暖化への寄与も当然減るた め、エネルギーとセットにして選定すべきです。 ここからは、各環境項目の予測評価手法について、順を追って話していきたいと 思います。まずは、工事用車両の走行に伴う大気質・騒音・振動についてです。 車両の走行に伴う予測評価は、その前提となる基礎交通量の予測が最も重要とな ります。工事予定時期までに新たな道路が建設され、開通すれば、自動車交通量が 増加してしまうので、それを含めた基礎交通量とする必要があります。 また、朝や昼休みなど、工事現場出入口や周辺の道路で工事開始待ちの車両がア イドリングする事例が後を絶ちません。工事現場の出入口付近では車両が一時停止 し、エンジンをふかすことになります。このような詳細な条件も考慮した予測評価 が必要です。予測地点については、車両の最も集中する時間帯という点だけでな く、ルートについても最も集中する場所、例えば工事現場の出入口付近や交差点な どを中心に選定するよう、考慮をお願いします。 なお、大気質の予測に用いるとされているプルーム・パフモデルは、発生源周辺 が障害物の何もない平坦地で、一定に拡散する理論であるため、住宅密集地の道路 などではこのモデルは成り立ちません。このモデルの適用は誤らないようにし、適 用できない場所については、実際に車両を走行させる現地実験などを行うことも必 要になると思います。 次は、列車の走行に伴う振動についてです。 予測地点は、振動の影響が最も大きく予想される、土被りが小さくかつ軟弱地盤 の場所を中心に選定すべきと考えます。井田〜久米周辺がその条件に該当します。 地盤沈下の予測地点も振動と同じように、土被りが小さくかつ軟弱地盤の場所 が、地盤沈下の影響が最も大きく予想されます。なお、予測手法は、圧密沈下理論 式などのシミュレーションによる予測だけでは不十分ですので、地盤沈下の発生し た類似事例を参考にして、その事例との比較評価も行うようお願いします。 次は、動物・植物についてです。 「注目種や群落の現況調査結果と事業計画を重ね合わせ、影響を推定する」とい う予測手法では不十分です。動物については、注目種が食物連鎖のどの位置に当た るかを確認し、その下位に当たる動物・植物の生息域全体を保全しなければ、注目 種の保全はできません。植物については、個体群・群落の一部が分断されること で、近親交配が起こって遺伝的多様性が低下することが問題となるので、交雑への 影響まで考慮した予測が必要です。 次は、生態系についてです。 「注目種の分布等の現況調査結果と事業計画を重ね合わせ、影響を推定する」と いう予測手法は全く的外れです。方法書の「V 都市計画対象事業実施区域及びそ の周囲の概況」には、生態系の悪化に関する記述があります。この事業を実施する ことで、これらの悪化がさらに加速するかどうかを評価しなければなりません。 次は、景観についてです。 景観は人間の感じ方そのものであるため、これを客観化するにはアンケート調査 が必要です。具体的には、複数の計画案をフォトモンタージュ化し、付近の在住・ 在勤・在学者などに母集団を設定し、複数のモンタージュ写真の中から好きなもの や嫌いなものを選んでもらうといった方法です。アンケートを集計し比較評価する といった方法でなければ、景観に関する客観的な評価はできないと思います。 以上、予測評価手法についての意見を色々話しましたが、まずは環境影響評価を 行う前に、事業の必要性や、今ある鉄道の活用策などの検討を、住民と共に十分行 い、それまで環境影響評価の準備書の手続には入らないよう、強く要望したいと思 います。 最後に横浜市の方にお願いなのですが、審査会の意見陳述は平日日中に1回きり の開催ではなく、一般の人がもっと陳述や傍聴をしやすいように、今後は夜間又は 休日に複数回開催してもらうことをお願いして、意見陳述を終わらせて頂きます。 (コメント:15分の持ち時間一杯を用いても時間は不足し、後半部分ははしょらざるを 得なかった。 武田)
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