JR東日本の「東京駅八重洲口開発事業」の環境アセスメント調査計画書に対す
る意見書を東京都に提出しました。
この事業の詳細は、以下のJR東ホームページに掲載されています。
www.jreast.co.jp/press/20020208/main.html
調査計画書を一読したところ、以下のようにJR東の姿勢を疑わざるを得ない大 きな問題を抱えていることがわかったので、千代田区の住民と連携しながらも、関 東支部としても活動した方がよいか、と考え始めました。
【事業概要】
東京駅八重洲口駅前広場の大丸・鉄道会館部分に、高さ215mもの超高層ビルを2
棟も建設し、併せて東京駅地下駐車場を850台増設する事業。これに併せて丸の内
駅舎復元、駅前広場、自由通路等の都市計画決定が行われる。JR東は「丸の内駅
舎復元プロジェクト」とキャンペーンしている。
【問題点】
・丸の内側から丸の内駅舎を見ると、背後に高層建築物が見苦しく建ち並ぶ。この
周辺でも数多くの高層ビル計画があり、風格ある駅舎の景観が大きく破壊される。
折角の駅舎復元も、これでは無意味。
・駐車場の増設は、東京駅までマイカーを利用させるJR東流「パーク&ライド」
をさらに助長させるもの。しかも、駐車場を増設するのに、自動車の大気汚染・騒
音・振動の影響予測をしないという、前代未聞のアセスメント。
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2002年5月9日
東京都知事 殿
環境影響評価調査計画書−東京駅八重洲口開発事業−に対する意見書
1.対象事業の目的及び内容について
○大手町・丸の内・有楽町地区に次々と高層建築物が便乗して建設され、西新宿の
ような高層ビル街が丸の内周辺にも出現するのではないかということを、市民は危
惧している。丸の内では「丸の内2丁目2−1他街区開発事業」など、近傍では
「汐留街区開発事業」など、本事業と同等の高さの高層建築物の建設計画が同時的
に進められており、これらが全部予定通り進められれば、景観破壊はもちろんのこ
と、複合的な環境影響は免れない。特に、日照阻害、電波障害、風害については、
甚大な影響となる恐れが大きい。
○高層棟の高さは215mと大変高いものになっているが、環境影響の側面からは問題
が多いため、環境影響評価手続を進める中で、事業計画を抜本的に見直して高さを
低く抑えることを検討する必要がある。そのためには、高さを最小限に見直した高
層棟を建設しない事業計画についても立案し、これらの事業や、本事業を全く実施
しない場合など、複数案の比較評価を行った上で、環境影響の少ない案を採用して
いくというプロセスを踏むことが必要である。
○「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン」についての記述がある
が、これには何も法的根拠がない。しかも、これを策定した「大手町・丸の内・有
楽町地区まちづくり懇談会」は、千代田区、東京都、大手町・丸の内・有楽町地区
再開発計画推進協議会、東日本旅客鉄道の四者のみで構成されており、周辺住民・
一般市民が入っていない。このような、市民の意見を反映していないまちづくりの
指針は根本的に見直すべきであり、本事業の根拠として適用するのは論外である。
○環境影響を予測評価する際には、以上のように、事業計画地近傍の他の事業計画
との複合影響を無視できない。高層建築物が一定の範囲内に林立した場合には、と
りわけ、日照阻害、電波障害、風害、景観に予想し得ない甚大な影響が出る恐れが
あり、その他の環境影響項目についても当然ながら複合影響は予想される。正確な
影響評価のためには、事業計画地近傍の計画も考慮して、複合影響を評価すべきで
ある。
○高層建築物の建設に併せ、約850台もの地下駐車場を整備する計画となっている
が、事業計画地は東京駅という日本一の鉄道利便性を誇る場所であり、しかも周辺
には既往の駐車場が存在することから、新たな駐車場の整備は不要である。後述す
るように、周辺の自動車公害は深刻な状況で、自動車交通量を減らすことが急務の
課題となっている。国内最大の鉄道事業者として、鉄道利用に逆行する駐車場事業
をこれ以上拡大することはやめ、鉄道をより利用してもらう方向を目指すべきであ
る。
○本地区には住民こそほとんどいないが、多くの在勤者がおり、ビジネス訪問客も
多い地区である。このまま環境影響評価手続を進めてしまえば、そのような幅広い
人の意見がほとんど反映されず、事業が進むにつれて多くの非難を浴びることにな
る。都心の一等地でこれだけの大規模な開発を行おうとする場合は、環境影響評価
の本調査に入る前に、全国民への十分な情報提供と、賛否や要望の調査が必要であ
る。
2.地域の概況について
○千代田区の環境保全に関する計画の中に、「千代田区景観形成マスタープラン」
と、「千代田区都市計画マスタープラン」の景観と環境まちづくりに関する記述を
引用すべきである。また、「修正千代田区基本計画」は、今年3月に「千代田区第
3次長期総合計画」に改訂されている。
○触れ合い活動の場は常磐橋公園だけでなく、計画建築物を眺望できる、皇居東御
苑、和田倉噴水公園、皇居外苑、日比谷公園についても記述すべきである。
3.環境影響評価の項目の選定について
○駐車場建設事業の環境アセスメントで、「大気汚染」を選定しないのは前代未聞
である。事業計画地周辺は現況でも面的にNOx汚染されており、環境基準を超過し
ている。そこに更なる車を集中させるのだから、順当に予測評価を行えば、NOx濃
度は環境基準を大幅超過する結果となることが予想される。この予測結果を都民か
ら批判されるのを避けるために、あえて項目から除外したとしか考えられない。こ
のような“挑戦的”やり方はおよそ認められるものでない。
○「大気汚染」と同様、駐車場建設事業の環境アセスメントで、「騒音」「振動」
を選定しないのも前代未聞である。車が集中すれば当然影響が出る項目なのだか
ら、あえて項目から除外せず、順当に予測評価を行うべきである。
○「触れ合い活動の場」については、外堀通りを通る工事用車両や駐車場利用車両
の走行が、常磐橋公園に影響を与える可能性があるため、選定すべきである。
4.地形・地質について
○環境影響評価において「地盤の変形は小さい」「地盤沈下の発生はない」と予測
したものの、実際には工事完了後に地盤沈下が進行した例は多い。特に本地区は、
地下水位が潮汐の影響を受ける、軟弱地盤の場所である。予測においては地盤沈下
の発生した類似事例を参照し、比較するよう求める。
5.日照阻害について
○「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」では、商業地域が
日影規制対象区域になっていない。しかし、事業計画地付近の事務所で働いている
在勤者は数多く存在し、日影時間が長くなれば労働環境は当然悪化する。商業地域
が日影規制対象区域になっていないことを根拠に、商業地域に生じる日影を評価で
無視することは絶対すべきでなく、その意味で「東京都日影による中高層建築物の
高さの制限に関する条例」は評価の指標として不十分である。商業地域の労働環境
を考慮した評価の指標を設定するか、又は上述のように複数案の比較評価が必要が
ある。
6.電波障害について
○電波障害は、反射波が他の高層建築物にぶつかれば、全く予想し得なかった新た
な場所に反射障害が生じる可能性もあり、複合影響を無視できない典型的な環境影
響項目である。大手町・丸ノ内・有楽町地区での数多くの高層建築物の建設計画は
もちろんのこと、障害予測範囲に建設・計画されている高層建築物のはすべて考慮
し、複合影響を予測評価すべきである。
7.風害について
○計画書では予測に風洞実験を用いるとされているが、風洞実験のみで現実を再現
することは不可能である。実験結果は誤差が非常に大きく、現地観測や類似事例と
対比しながら結果を解釈する必要があるとの論文が、気象学会誌などで多数発表さ
れている。汐留地区の場合は現況が更地であり、そこにこれだけの高層建築物を造
れば、風環境が大きく変わることは当然予想できる。中高層ビル街では、本事業よ
り低い高さでも、日常的に風の被害が現れている。既に開発の終わった類似事例の
参照と、現地の風観測(定点観測・移動観測)を実施し、風洞実験結果と実際の風
観測結果の誤差を補正することが、風害の予測には不可欠である。
○風洞実験の模型は、大きいと風洞側壁の境界領域の影響が出てしまい、小さいと
実物の再現性が悪く模型の誤差が大きくなる。また、模型の材質によっても摩擦効
果に影響を与える。実験結果に重大な影響を与える、風洞の大きさ、模型の縮尺、
模型の再現範囲(事業計画地から半径何kmの範囲か)、模型の材質について示さな
ければ、計画書とは言えない。見解書においてこれらを必ず示すよう求める。
○風洞実験の模型で、再現が最も難しいのが植栽樹木である。枝葉部分を模型で正
確に再現することは通常不可能で、一般には枝葉部分の空隙が少なめになり、充実
率が実際の樹木より大きくなる傾向にあるため、風洞実験による樹木の防風効果は
実際よりも大きめの結果が出ることが多い。実際には、風速減衰の大きさと風下方
向へ効果の及ぶ範囲は、樹木の充実率によってばらつきが生じるという報告があ
り、充実率は樹種により決まる。また、同じ樹種でも、配列様式や植栽時樹齢等の
詳細な植栽計画、植栽後の生長具合により、防風効果は大きく変化し、効果が全く
出ない場合もある。樹木の防風効果はこの点に注意して解釈する必要があり、比較
のために植栽なしの場合も実験することが必要である。また、樹木模型はどのよう
なものか、図面又は写真を見解書に示すよう求める。
○風害も電波障害と同様、複合影響を無視できない環境影響項目である。風洞実験
の模型には、大手町・丸ノ内・有楽町地区での数多くの高層建築物の開発が完成し
た状態を再現することが必要である。
8.景観について
○丸の内地区は、東京駅や皇居などの全国的な価値を持つ歴史的景観資源により特
徴づけられる、景観上非常に重要な地区である。千代田区の「景観形成マニュア
ル」や東京都の「一般地域の景観づくり基準」では、歴史的に形成されてきた地域
のスカイラインを尊重し、これを超える場合には形状等を相当工夫することとされ
ている。当地区において歴史的に形成されてきたスカイラインは概ね高さ30〜70m
程度、高い所でも100m程度であり、その中に高さ215mもの ビルを2棟も建設する
ことは、明らかに当地区の景観を破壊するものである。特に本事業の場合、東京駅
丸の内駅舎という全国的に貴重なランドマークの背後にビルが建設され、丸の内側
行幸通りから駅舎を眺める眺望景観(計画書の調査地点C)が大きく破壊されるこ
とが問題である。
○高層建築物の新築の場合にありがちなのは、「新たな都市的景観が創出される」
という抽象的な文言でよい評価結果を出すものであるが、新たな都市的景観をよい
景観と認識するかどうかは人それぞれである。景観の評価がこうなってしまうの
は、評価の指標が景観の方針への適合といった抽象的なものでしかないこと、及
び、複数の比較評価をしていないことが原因である。景観は人間の感じ方そのもの
であるため、これを客観化するにはアンケート調査が必要である。具体的には、複
数の計画案をフォトモンタージュ化し、付近の在住・在勤・在学者など母集団を設
定し、複数のモンタージュ写真の中から好きなものや嫌いなものを選んでもらうと
いった方法である。アンケートを集計し比較評価するといった方法でなければ、景
観に関する客観的な評価はできない。
○市民が危惧するのは、大手町・丸ノ内・有楽町地区への高層ビル建設が次々に進
行し、付近の景観が一変するのではないかということである。大手町・丸ノ内・有
楽町地区全体の開発が完成した状態での景観についても予測評価する必要がある。