東京都知事 殿
環境影響評価書案−東京駅八重洲口開発事業−に対する意見書
1.都民意見に対する事業者の見解全般について
○調査方法に関する意見に対してはほとんど「技術指針に基づき調査及び予測・評
価を行います」との見解が示されている。しかし、技術指針に示されている方法は
複数あることから、技術指針のどの方法を採用するかを答えなければ、見解にはな
らない。また、技術指針の方法では不十分な点を指摘している意見が多いのだか
ら、単に技術指針に基づくのでは都民の意見を反映したことにはならず、事業者と
して都民意見をどのように予測評価に反映させるのかを答えるべきである。
○高層棟の高さは当初より10m小さい205mに縮小されたが、まだまだ大変高く、環
境影響の側面からは問題が多いため、事業計画を抜本的に見直して高さを低く抑え
ることを検討する必要がある。そのためには、高さを最小限に見直した高層棟を建
設しない事業計画についても立案し、これらの事業や、本事業を全く実施しない場
合など、複数案の比較評価を行った上で、環境影響の少ない案を採用していくとい
うプロセスを踏むことが必要である。
○「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン」については、周辺住民
・一般市民の意見を反映していないため、本事業の根拠として適用するのは論外と
する意見に対して、「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン等を踏
まえて事業計画を策定しております」との見解では、住民無視と言わざるを得な
い。
○事業計画地近傍の計画も考慮した複合影響の予測評価については、風環境・景観
については行われたが、大気汚染・日影・電波障害など、その他の項目についても
当然ながら予想されるものであり、風環境・景観と同様に予測評価すべきである。
○駐車場の整備については「東京都駐車場条例等に基づいた必要台数を確保する」
との見解であるが、事業計画地は東京駅という日本一の鉄道利便性を誇る場所であ
り、しかも周辺には既往の駐車場が存在することから、新たな駐車場の整備は最低
限に留めるべきである。国内最大の鉄道事業者として、鉄道利用に逆行する駐車場
事業をこれ以上拡大することはやめ、鉄道をより利用してもらう方向を目指すべき
である。また、都に対しては、公共交通機関の整備状況を考慮して駐車場整備台数
を削減するような行政指導、条例改正を強く求めるものである。
2.環境影響評価の項目の選定について
○調査計画書段階では、駐車場建設事業であるにもかかわらず、「大気汚染」「騒
音」「振動」が予測評価項目から除外されていた。結果的には知事の審査意見書及
び都民等からの意見に基づき、これらの項目が選定されたが、ある意味当然であ
る。そのため、調査方法についての意見を求めないまま、今回の評価書案で結果が
出されることになったのは遺憾と言わざるを得ない。今後は、“挑戦的”な調査計
画書は決して受理しないよう、都に対し強く求めるものである。
○項目「触れ合い活動の場」を選定しない理由として、「技術指針で示されている
触れ合い活動の場、すなわち、不特定多数の地域住民が日常的に自然との触れ合い
を行う機能を持つ場ではない」とあるが、技術指針には「区市町村立の公園」も対
象とされており、常磐橋公園はこれに該当する。外堀通りを通る工事用車両や駐車
場利用車両の走行はこの公園に影響を与える可能性があるため、予測評価項目に選
定すべきである。
3.大気汚染について
○NOxについて、「現況で既に環境基準を上回っており、本事業による付加率は小
さいことから影響は少ない」という評価であるが、このような姿勢を事業者が貫く
ことは問題である。現況で環境基準を上回っているところに、さらに付加するよう
な事業計画は根本的に見直すべきである。
○予測にプルーム・パフモデルを用いるとされているが、このモデルは発生源周辺
が障害物の何もない平坦地で、一定に拡散する理論であるため、中高層ビル街の道
路などではモデルが成り立たない。このモデルの適用を誤らないようにし、適用で
きない場所は現地実験などによる予測評価も必要である。
○大手町・丸ノ内・有楽町地区をはじめとする、事業計画地周辺には数多くの高層
建築物が建設・計画されており、本事業による工事用車両はこれらの建設予定地を
取り囲むように走行するルートが示されている。従って、これらの建設予定地にお
ける機械稼働に伴う大気汚染、工事用車両による大気汚染との複合影響は無視でき
なくなることが予想され、とりわけ工事用車両の集中は、速度低下やアイドリング
の機会を増加させることにつながる。大気汚染の予測地点は八重洲側だけでなく、
丸ノ内側(特に明治生命館や東京ビルヂングなどの前の道路)にも設け、数多くの
高層建築物の建設事業との複合影響を予測評価すべきである。
○東京駅周辺の狭い範囲で建設事業が集中すれば、周辺の交通量は増加し、交差点
でのアイドリング時間も長くなる。また、朝や昼休みなど、工事現場出入口や周辺
の道路で工事開始待ちの車両がアイドリングすることは避けられない。このような
条件下での予測評価も行う必要がある。
4.騒音・振動について
○車両走行に伴う騒音・振動については「周辺幹線道路に対する負荷率が小さいこ
とから予測の対象としない」とあるが、大気汚染以上に特定の時間帯に集中するこ
とが問題となる項目であり、朝など時間帯によっては負荷率が非常に大きくなるこ
とが予想されることから、予測評価すべきである。
5.地盤について
○環境影響評価において「地盤の変形は小さい」「地盤沈下の発生はない」と予測
したものの、実際には工事完了後に地盤沈下が進行した例は多い。特に本地区は、
地下水位が潮汐の影響を受ける、軟弱地盤の場所である。調査計画書に対する意見
書では、予測において、地盤沈下の発生した類似事例を参照し比較するよう求めた
にもかかわらず、評価書案では「周辺地域の土地の安定性に影響を及ぼさないこ
と」なる抽象的指標で評価してしまったことは問題である。
6.日影について
○「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」では、商業地域が
日影規制対象区域になっていない。しかし、事業計画地付近の事務所で働いている
在勤者は数多く存在し、日影時間が長くなれば労働環境は当然悪化する。商業地域
が日影規制対象区域になっていないことを根拠に、商業地域に生じる日影を評価で
無視することは絶対すべきでなく、その意味で「東京都日影による中高層建築物の
高さの制限に関する条例」は評価の指標として不十分である。評価書案ではあくま
で条例にこだわっているが、これにこだわる理由が示されていない。
○大手町・丸ノ内・有楽町地区をはじめとする、事業計画地周辺に建設・計画され
ている数多くの高層建築物をすべて考慮し、複合影響を予測評価すべきであるにも
かかわらず、評価書案では本事業単体による影響を対象として予測評価してしまっ
た。複合影響が予想されるにもかかわらず、なぜ単体の予測としてしまったのか。
7.電波障害について
○電波障害は、反射波が他の高層建築物にぶつかれば、全く予想し得なかった新た
な場所に反射障害が生じる可能性もあり、複合影響を無視できない典型的な環境影
響項目である。大手町・丸ノ内・有楽町地区をはじめとする、障害予測範囲に建設
・計画されている数多くの高層建築物をすべて考慮し、複合影響を予測評価すべき
であるにもかかわらず、評価書案では本事業単体による影響を対象として予測評価
してしまった。複合影響が予想されるにもかかわらず、なぜ単体の予測としてし
まったのか。
○反射障害(UHF)の影響は遠く三浦半島や富津岬まで及ぶことが予測されてお
り、東京駅周辺で行われる開発の電波障害予測としては過去最大である。環境保全
のための措置には「適切な対策を講じる」と書かれているのみで、具体的な対策は
何ら示されていない。建築物の高さを低くすることを抜本対策として検討すべきで
ある。
8.風環境について
○予測に風洞実験が用いられているが、風洞実験のみで現実を再現することは不可
能である。実験結果は誤差が大きく、現地観測や類似事例と対比しながら結果を解
釈する必要があるとの論文が、気象学会誌などで多数発表されている。既に開発の
終わった類似事例の参照と、現地の風観測(定点観測・移動観測)を実施し、風洞
実験結果と実際の風観測結果の誤差を補正することが、風害の予測には不可欠である。
○風洞実験の模型は、大きいと風洞側壁の境界領域の影響が出てしまい、小さいと
実物の再現性が悪く模型の誤差が大きくなる。また、模型の材質によっても摩擦効
果に影響を与える。実験結果に重大な影響を与える、風洞の大きさ、模型の縮尺、
模型の再現範囲(事業計画地から半径何kmの範囲か)、模型の材質について示さな
ければ、計画書とは言えない。諸元を評価書案で示したのでは遅すぎる。
○2棟の超高層棟脇の外堀通りでは、風環境ランクの上がる地点が多いが、その元
データとなる資料編の風向風速比ベクトルの図では、風速比の数値が読みとれな
い。全測定点・16方位の現況と建設後の風速比の数値表を示して頂きたい。
9.景観について
○丸の内地区は、東京駅や皇居などの全国的な価値を持つ歴史的景観資源により特
徴づけられる、景観上非常に重要な地区である。千代田区の「景観形成マニュア
ル」や東京都の「一般地域の景観づくり基準」では、歴史的に形成されてきた地域
のスカイラインを尊重し、これを超える場合には形状等を相当工夫することとされ
ている。当地区において歴史的に形成されてきたスカイラインは概ね高さ30〜70m
程度、高い所でも100m程度であり、その中に高さ205mものビルを2棟も建設するこ
とは、明らかに当地区の景観を破壊するものである。
○計画地東側の近景域からの眺望の変化は「新たな景観構成要素として強く認識さ
れ」「近代的都市景観を形成する」とされており、和田倉門交差点からの東京駅赤
煉瓦駅舎を望む眺望の変化は「意匠や色彩に配慮するためビスタ景への影響は軽減
できる」とされている。調査計画書に対する意見書では、このような抽象的な文言
でよい評価結果を出してしまうことのないよう前もって指摘したにもかかわらず、
評価書案でこのやり方を貫いたことは大いに問題がある。景観の評価がこうなって
しまうのは、評価の指標が景観の方針への適合といった抽象的なものでしかないこ
と、及び、複数の比較評価をしていないことが原因である。景観は人間の感じ方そ
のものであるため、これを客観化するにはアンケート調査が必要である。具体的に
は、複数の計画案をフォトモンタージュ化し、付近の在住・在勤・在学者など母集
団を設定し、複数のモンタージュ写真の中から好きなものや嫌いなものを選んでも
らうといった方法である。アンケートを集計し比較評価するといった方法でなけれ
ば、景観に関する客観的な評価はできない。
○特に本事業の場合、東京駅丸の内駅舎という全国的に貴重なランドマークの背後
にビルが建設され、丸の内側行幸通りから駅舎を眺める眺望景観(評価書案におけ
る和田倉門交差点からのビスタ景)が大きく破壊されることが問題である。全国民
に対するヒアリング調査を行い、それを集計することが必要である。
以上
記入日 2003年6月25日
清水孝彰