【事業概要】
JR越中島線小名木川貨物駅(江東区)の跡地に、商業施設と2150台の立体駐車
場を建設する事業。
【問題点】
越中島線のLRT化の動きや、小名木川の舟運復活計画などがあるにもかかわら
ず、それらにお構いなしに、商業施設へ人や物を運ぶ手段をすべて車と考え、過大
な駐車場計画を立てていること。
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2002年5月9日
東京都知事 殿
環境影響評価調査計画書−小名木川貨物駅跡地商業施設建築事業−に対する意見書
1.対象事業の目的及び内容について
○本事業は、商業施設に地上5階、約2150台もの駐車場を整備する計画であるが、
以下のような事業計画地周辺の交通の現況や計画を勘案すれば、この駐車場の規模
は過大すぎる。
・事業計画地は都営新宿線西大島駅より500mの至近距離にある。
・事業計画地の小名木川貨物駅跡地は、JR越中島貨物線(以下「越中島線」)と
小名木川の交点に位置する。越中島線については、LRT化して江東区の南北交通
の確保を求める声がある。昨年9月には日本PFI協会が、同線を利用した亀戸〜
新木場間のLRT事業化の提言を江東区に提出しており、区も積極的に要望を受け
入れ取り組んでいるところである。この提言は、本事業の商業施設利用者の需要を
見込んだものとなっている。
・東大島付近の旧中川と荒川の間には、荒川ロックゲート(閘門)が整備されてお
り、小名木川を始めとする江東内部河川と荒川・隅田川を結ぶ水上交通ネットワー
クが計画されている。主要な交通結節点には水上バスステーションの整備も計画さ
れている。これらの整備は「地域戦略プラン」にも採択され、予算措置も講じられ
ている。
○商業施設への輸送需要は、都営新宿線(西大島駅)、越中島線LRT、小名木川
水上バスを利用すれば十分さばくことができる。また、越中島線は文字通り貨物線
であり、舟運は貨物輸送に優れた交通機関であるため、旅客のみならず、商業施設
への貨物輸送にも公共交通が十分利用できる場所である。駐車場の整備は大幅に削
減し、T街区の駐車場予定地には小名木川駅の機能を復活し、水陸連絡駅としての
整備を求めるものである。
○供用時のみならず、施工についても、越中島線と小名木川の舟運を利用して、工
事用車両を削減すべきである。
○以上のように、越中島線の利用、小名木川の舟運の利用等が具体化した場合につ
いて、環境面からの比較評価が必要である。
○地球環境に優しい貨物輸送をPRしている事業者としては、単に貨物駅をつぶし
て駐車場を建設するのではなく、区の公共交通の計画を具体化させ、本事業に公共
交通を利用できるよう、区や河川管理者、住民と協議を重ねてほしい。また、LR
Tや河川環境に取り組む市民団体との連携の場を確保し、公共交通の計画への市民
参加を進めていく必要がある。
2.地域の概況について
○東京都環境影響評価技術指針で求められている調査項目を網羅しておらず、あま
りに情報不足である。気象(一般項目)、悪臭、低周波音、水質汚濁、触れ合い活
動の場、廃棄物、温室効果ガス(以上環境項目)について、概況を記述すべきであ
る。
○水域利用の記述内容は、舟運が過去の歴史と化しているが、復活の試みがある。
上述の「東大島付近の旧中川と荒川の間には、荒川ロックゲート(閘門)が整備さ
れており、小名木川を始めとする江東内部河川と荒川・隅田川を結ぶ水上交通ネッ
トワークが計画されている。主要な交通結節点には水上バスステーションの整備も
計画されている。」という事実を調査し記述すべきである。
3.環境影響評価の項目の選定について
○予測・評価項目として以下を追加選定すべきである。
・水文環境…江東内部河川が縦横に走り、特に事業計画地は小名木川に隣接してい
る場所であるため、選定すべきである。
・触れ合い活動の場…計画地の北側に北砂緑道公園がある他、小名木川では水辺の
散歩道など親水空間の整備が進められている。工事用車両や駐車場利用車両の走行
が、それらの場所に影響を与える可能性がある。
・廃棄物…工事中の建設発生土(産業廃棄物)だけでなく、工事完了後の商業施設
の供用に伴う廃棄物についても予測・評価すべきである。
・温室効果ガス…商業施設の供用に伴い、エネルギーを使用すれば、温室効果ガス
の大きな要因となる。
○地盤沈下については「事業の内容により選定・非選定を明確化する」とある。し
かし、本地域は地盤沈下が長年に渡り問題となっている地域であるため、事業の内
容にかかわらず、選定するよう求める。
4.大気汚染・騒音・振動について
○工事用車両や工事完了後の駐車場利用車両の走行に伴う大気汚染・騒音・振動の
予測評価では、その前提となる基礎交通量の予測が最も重要である。工事予定時期
までに周辺で新たな道路や駐車場が建設・開通すれば、自動車交通量が増加するの
で、それを含めた基礎交通量とする必要がある。
○朝や昼休みなど、工事現場出入口や周辺の道路で工事開始待ちの車両がアイドリ
ングする事例が後を絶たない。また、出入口付近では車両が一時停止し、エンジン
をふかすことになる。このような詳細な条件も考慮し、予測評価するよう求める。
○大気汚染の予測にプルーム・パフモデルを用いるとされているが、このモデルは
発生源周辺が障害物の何もない平坦地で、一定に拡散する理論であるため、住宅密
集地の道路などではモデルが成り立たない。このモデルの適用を誤らないように
し、適用できない場所は現地実験などによる予測評価も必要である。
○予測地点は、車両の最も集中する時間帯及びルート(現場出入口、交差点など)
を中心に選定すべきである。
5.景観について
○景観は人間の感じ方そのものであるため、これを客観化するにはアンケート調査
が必要である。具体的には、複数の計画案をフォトモンタージュ化し、付近の在住
・在勤・在学者など母集団を設定し、複数のモンタージュ写真の中から好きなもの
や嫌いなものを選んでもらうといった方法である。アンケートを集計し比較評価す
るといった方法でなければ、景観に関する客観的な評価はできない。