平成14年2月20日


川崎都市計画都市高速鉄道第1号川崎縦貫高速鉄道線新百合ヶ丘〜元住吉間建設事業

意見書(環境影響評価方法書についての環境保全上の見地からの意見)
川崎市長 殿
                  全国鉄道利用者会議関東支部長・清水孝彰


意見陳述申出書
横浜市環境影響評価審査会会長 殿
                     全国鉄道利用者会議代表・武田 泉


1.都市計画対象事業の目的及び内容について

○鉄道事業について法的に住民参加が保証されているのは、都市計画手続、環境影
響評価手続の時ぐらいであり、鉄道計画そのものへの住民参加規程がない。今回は
数少ない住民参加機会の1つであるため、意見書の中では、鉄道計画自体への意見
も含め述べさせていただく。

○方法書には新百合ヶ丘〜元住吉間の事業計画しか記載されていないが、川崎縦貫
鉄道は川崎市の骨格軸を形成するものとして、将来的には京急大師線との直通運
転、羽田空港乗り入れも視野に入れているとの話も聞いている。今回の事業区間
が、全体計画・将来計画の中でどのような位置づけ・意味を持っているのかがわか
るよう、全体計画・将来計画を図面やバーチャート等で提示するよう求める。ま
た、従来の計画変更の経緯についても、十分に情報公開する必要がある。

○本鉄道が、将来的にも川崎市内だけに留まる鉄道なのか、市内のみならず羽田空
港から多摩・相模原・八王子方面の業務核都市を結ぶ将来計画なのかによって、鉄
道の規格もそれにふさわしいものを適用すべきである。フル規格地下鉄方式(以下
「地下鉄方式」)は、市内にとどまらない広域鉄道に適用することが望ましく、将
来的にも川崎市内のみの計画なら、LRT(路面電車)又は路下電車(いわゆるミ
ニ地下鉄)にすべきである。世界的なLRT・路下電車を導入しようとする土壌が
国内にないのは、旧建設省運輸省の対立の構図を背景とする役所の都合による鉄道
助成体系が背景にある。現状での制度、枠組みでLRT・路下電車が実現できない
のであれば、「軽快鉄道法」のような新たな枠組みが成立するまで川崎縦貫鉄道建
設を凍結してほしい。地方自治体は役所の前例主義だけでなく、新たな先進的な交
通政策を是非とも提案していただきたい。

○住民からは、本事業計画が需要に対して過大であるとして、LRT・路下電車以
外にも、既設線の活用や、事業費の縮小を主眼とした以下のような代替案が提示さ
れている。特に、新百合ヶ丘の住民が川崎都心へ行く需要はほとんどなく、行く場
合でも南武線を使えば十分であるため、地下鉄方式の鉄道の必要性が疑問視されて
いる。
・武蔵野南線(貨物線)の旅客化
・南武線の充実化(快速列車の運行等)
・既設バス路線の充実化(バスロケーションシステムや基幹バス等の対策)
 環境影響評価法第14条第7号には、準備書記載事項として「ロ 環境の保全のた
めの措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)」とある。
この( )書きの部分は、代替案・複数案を検討した結果がどうであったのか、代
替案を検討しないならばその理由を記述せよ、という法解釈となっている。上記の
代替案は、いずれも地下鉄方式の代替案として、環境保全の見地からも検討に値す
るものである。事業を縮小することは、環境影響(具体的には建設残土、工事用車
両、エネルギー等に係るもの)も軽減化されることにつながる。方法書では、どの
ような代替案を検討するのかが記述されていないので、上記の様々な意見を踏ま
え、代替案の検討内容を明確にするよう求める。

○川崎市では、川崎縦貫高速鉄道線研究会を立ち上げ、市民参加で事業の必要性や
事業費の縮小等について検討していくこととなっている。この研究会は、専門家の
委員会と市民参加の方の委員会とを別立てで行い、市民の公募対象を川崎市民に限
定するとのことだが、こうしたやり方は疑問である。専門家委員の選定方法、土木
工学の専門家だけで計画立案してきたことに疑問を感じる。

○こうした情勢の下で、一方的に地下鉄方式での鉄道建設を前提として環境影響評
価手続を進めることは問題である。環境影響評価を行う前に、事業の必要性や、既
設線の活用等の十分な検討(研究会での検討)を先に行い、既設線の活用を実現化
するためのJRや民鉄各社との協議も進める必要がある。

○資材及び機械の運搬に用いる、工事用車両の走行計画(車両、ルート、時間帯)
を示すべきである。下記に示すように、大気汚染、騒音、振動、触れ合い活動の場
の予測評価手法が妥当かどうか、これを見ない限り評価できない。特に、予測地点
をどこに設定するかの意見を出したかったのだが、走行ルートの情報が示されてい
ないので意見の出しようがない。

○地下鉄の場合は、大量の建設残土が発生する。建設残土の処理をどうするのか、
予定される量と廃棄場所についても示すべきである。

2.環境影響評価項目の選定について

○地盤については、「切土工等又は既存の工作物の除去」のみでなく、「鉄道施設
の存在」による影響も予測評価すべきである。いくつかの地下鉄工事において、供
用後に地盤沈下が進行した例は多い。

○人と自然との触れ合い活動の場については、「鉄道施設の存在」のみでなく、
「資材及び機械の運搬に用いる車両の運行」による影響も予測評価すべきである。
工事用車両の走行ルートが示されていないので詳細は不明だが、触れ合い活動の場
付近やアクセスルートを工事用車両が通ることになれば、当然影響を及ぼすことに
なる。

○【条例方法書】地域交通については、「資材及び機械の運搬に用いる車両の運
行」のみでなく、「鉄道施設の存在」による影響も予測評価すべきである。現在駅
周辺整備計画等を検討中とのことであるが、これらの整備計画を計画立案段階で環
境の視点から評価し、より環境影響の少ない計画へとしていくことが必要であり、
本来のアセスメントの趣旨である。

3.環境配慮項目の選定について

○【条例方法書】以下の項目を、環境配慮項目として選定すべきである。
・電磁波・電磁界…電車は強い磁場の発生源であり、環境への配慮が当然必要な項
目である。
・エネルギー…「電車の走行による効率的な電気の利用とともに、自動車交通機関
への代替として、環境負荷の軽減が図られる」とあるが、例え電車であっても、省
エネやクリーンエネルギー導入を進めることは必要である。また、既設線の活用や
LRT化など、事業規模を縮小すれば尚更のこと、エネルギー消費量は抑制できるの
であり、これらの比較評価によってより環境負荷の少ない鉄道を目指すというアセ
ス本来の趣旨からしても、選定すべきである。
・地球温暖化…エネルギーと同様の理由で、選定すべきである。

4.大気質・騒音・振動について

○「資材及び機械の運搬に用いる車両の運行」に伴う大気質・騒音・振動の予測評
価では、その前提となる基礎交通量の予測が最も重要である。工事予定時期までに
新たな道路が建設・開通すれば、自動車交通量が増加するので、それを含めた基礎
交通量とする必要がある。

○朝や昼休みなど、工事現場出入口や周辺の道路で工事開始待ちの車両がアイドリ
ングする事例が後を絶たない。また、出入口付近では車両が一時停止し、エンジン
をふかすことになる。このような詳細な条件も考慮し、予測評価するよう求める。

○大気質の予測にプルーム・パフモデルを用いるとされているが、このモデルは発
生源周辺が障害物の何もない平坦地で、一定に拡散する理論であるため、住宅密集
地の道路などではモデルが成り立たない。このモデルの適用を誤らないようにし、
適用できない場所は現地実験などによる予測評価も必要である。

○予測地点は、車両の最も集中する時間帯という点だけでなく、ルートについても
最も集中する場所(現場出入口、交差点など)を中心に選定すべきである。

5.振動(列車の走行)について

○予測地点は、振動の影響が最も予想される、土被りが小さくかつ軟弱地盤の場所
を中心に選定すべきである。井田〜久米周辺が該当する。

6.地盤について

○予測地点は、地盤への影響が最も予想される、土被りが小さくかつ軟弱地盤の場
所を中心に選定すべきである。井田〜久米周辺が該当する。

○手法は、圧密沈下理論式等のシミュレーションによる予測だけでは不十分であ
り、地盤沈下の発生した類似事例との比較評価が必要である。

7.動物について

○注目種の行動範囲等の現況調査結果と事業計画を重ね合わせ、影響を推定するだ
けでは不十分である。注目種が食物連鎖(ピラミッド)のどの位置に当たるかを確
認し、その下位に当たる動物・植物の生息域全体を保全しなければ、注目種の保全
はできない。

8.植物について

○重要な種及び群落の分布等の現況調査結果と事業計画を重ね合わせ、影響を推定
するだけでは不十分である。個体群・群落の一部が欠損・分断されると、交雑に影
響を来たし、近親交配等で遺伝的多様性が低下し、個体群・群落全体の縮小・絶滅
へとつながっていくことが問題である。個体群・群落の欠損・分断による交雑への
影響まで考慮して、予測することが必要である。

9.生態系について

○「注目種の分布等の現況調査結果と事業計画を重ね合わせ、影響を推定する」と
いう予測手法は全く的外れである。「V 都市計画対象事業実施区域及びその周囲
の概況」には、生態系の悪化に関する記述があり、本事業の実施によってこの悪化
がさらに加速するかどうかを評価しなければならない。地域を特徴づける生態系が
なぜ悪化しているのか、その要因を調査し、本事業による植物群落の遷移や動植物
種の生息への影響を、植物社会学的な手法で予測評価するよう求める。

○現在は普遍種であっても、様々な人為的行為がその種を絶滅危惧種に追いやる可
能性がある。現在の絶滅危惧種も、大半は人為的に作り出されたものである。本事
業によっていくつかの普遍種の絶滅危険性がどの程度増大するか、集団の大きさや
平均余命等を数理モデルを使ってシミュレーションし、絶滅危険性のリスクを評価
してほしい。

10.景観について

○景観は人間の感じ方そのものであるため、これを客観化するにはアンケート調査
が必要である。具体的には、複数の計画案をフォトモンタージュ化し、付近の在住
・在勤・在学者など母集団を設定し、複数のモンタージュ写真の中から好きなもの
や嫌いなものを選んでもらうといった方法である。アンケートを集計し比較評価す
るといった方法でなければ、景観に関する客観的な評価はできない。

○評価の指標として、川崎市・横浜市の景観に関する目標・方針・計画等を用いる
必要がある。


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