国土交通大臣 様
国土交通省鉄道局技術企画課 御中提出者 全国鉄道利用者会議 代表:武田泉(北海道教育大学助教授)時下、益々のご清祥のこととお慶び申し上げます。鉄道に関するの技術上の基準 を定める省令案(以下「新技術基準」)に関するコメント募集に提案させていただき ます。なお、以下の提案は普通鉄道構造規則に関わる内容が中心ですが、関連する鉄 道営業法、鉄道事業法、下位規程の改定に影響する内容も含めて記述致しました。
1.高齢者・移動制約者等への配慮
バリアフリーとは、障害者だけのものではなく利用者全体の利便性向上であると 考えます。その点今日の鉄道行政では着席に対しては無策です。
高齢化社会・移動制約者も含めた利用者全体の利便性向上を考えると利便性に対 する指標が全く欠けていることがわかります。例えば1990年代には鉄道会社は冷房化 率という指標を用い快適性の向上をさせましたがそれ以外の指標は不在ですし、監督 官庁にもありません。
今後の運輸データ作成には「着席率」という指標を用いるべきと考えます。これ までは各鉄道会社の輸送力を単純に乗車人員で割った、「混雑率」という着席定員と 立席定員を合わせた指標しかありませんでした。
昨今、鉄道車内での暴力事件が頻発しましたが、報道では乗客のマナーのみが取 り上げられ、快適性の向上や運行本数の増加による混雑低下という議論が巻き起こり ませんでした。快適性の向上が図られない限りこのような事件は発生します。
また、経済性を追求するならば着席率や利便性の向上における経済効果を試算す べきと考えます。道路行政では、高速道路の混雑緩和や未開通区間の開業における経 済効果や地域社会へのインパクトを指標していますが、鉄道行政にはその視点が欠落 してます。是非鉄道行政も利用者側に立った経済指標を策定してください。
なお、車両だけでなく、駅のベンチ数が少ないもの問題ですので、旅客施設にお けるベンチや待合施設の増設も急務であると考えます。○普通鉄道構造規則第196条には「旅客車には、適当な数の旅客用座席を設けなけ ればならない」との定めがあるのみで、座席数に関する基準が全くないため、乗客の 着席が担保されない状態にあります。座席数を決めるに当たっては、着席率と立ち客 割合という指標を作成し、毎時の着席率を作成・公表し、全員着席に必要な座席数を 算出した上で、利用者の意見も聴取しながら、線区毎・時刻毎の基準を決定していく ことが必要となります。この手順を新技術基準に記述すると共に、着席率の国土交通 省への報告と公表を、鉄道事業法において規定するよう求めます。
○必要な座席の確保は、下記@〜Cの順序で考え、着席率を向上させる努力を各事 業者に求めていく必要があります。下記に示すように、車両の構造だけでなく、運行 計画(ダイヤ)の面からも乗客の着席が担保できるよう、必要な規定を新技術基準に 定めると共に、終電間際や土日の間引き運転さらにはオールロングシート車の導入 等、着席率の低下を実施した事業者に対する行政指導の徹底を、鉄道事業法において規 定するべきと考えます。
@1車両当たりの座席数の増加(ロングシート車のクロスシート化 等)
A1編成当たりの連結数の増加(混雑区間の空車連結 等)
B運行頻度の増加(昼間や深夜の間引き運転抑制 等)
C二階建て車両の導入(但しバリアフリーを考慮し、一階建ての車両も編成中に残すことを原則とする)○1950年代に設定され見直しをされていない、車内の乗車定員算定方法の改定が必 要です。座席幅は平均43センチですが、男性7人が腰をかけると狭いのは快適性の 低下につながります。(関西地区では一人当たり47センチ幅の車体も存在・阪神電 車)また、平均1uあたり3名の立ち客を定員と定めていますが、これは各社間や 同じ社内でも算定方法がばらばらです。これでは算定方法を意図的に変更されること が予想されますので、この混雑率の算定方法の全事業者間の統一を行うことと、1u あたり2名程度に立ち客割合を規制強化すべきと考えます。
2.環境への配慮
騒音という現象面だけが環境の配慮ではなく、クルマ社会からの転換が環境への 配慮です。そのためには道路行政、鉄道行政双方が連携しクルマ社会からの転換を視 野に入れた施策が必要です。
また、風力発電やソーラー列車等、鉄道動力自体へのクリーン(新)エネルギー の導入を積極的に検討していくよう求めます。3.利用者の意見に基づいた新技術基準の継続的見直し
鉄道に関する利用者の意見・要望・苦情は、普通鉄道構造規則や鉄道運転規則等 の技術基準に影響するものが多くあります。鉄道事業法第1条「鉄道等の利用者の利 益を保護する」、鉄道運輸規程第3条「旅客、手荷物又ハ貨物ノ取扱ニ関スル鉄道ノ 処置ヲ不当ナリトシテ申告ヲ為シタル者ニ対シテハ鉄道ハ遅滞ナク之ガ弁明ヲ為スベ シ」を具体化する利用者保護規程を定め、利用者の意見に基づいた新技術基準の継 続的見直しが行える仕組みを構築する必要があると考えます。以上
上記の提言に対する国土交通省からの回答
回答全文は国土交通省ホームページにあります。
---------------------------------------------------------------------- 鉄道に関する技術上の基準を定める省令案に関する パブリックコメントの募集の結果について (頂いたご意見) 利便性向上のため「着席率」という指標を導入するべき。 (国土交通省の考え方) 定員の算定、座席数等については、車椅子スペースの採用及び鉄道車両の使用実 態等の変化に伴い、それぞれの線区の状況、利用者のニーズ等を考慮し、各鉄道事 業者の判断に委ねることが適当であり、国の定める技術基準に一律に定める事項で はないと考えています。 (頂いたご意見) 車社会からの転換を視野に入れた施策が必要 (国土交通省の考え方) 鉄道は、重要な公共交通機関であるとの認識のもと、社会的に求められる安全性 等の水準を国として示すため技術基準を策定しているものであり、これの適正な運 用に基づき、さらに鉄道輸送の安全性・信頼性の向上を図り、鉄道利用の促進につ なげて行きたいと考えております。 (頂いたご意見) 利用者の意見に基づいた新技術基準の継続的見直しが必要 (国土交通省の考え方) 今後とも利用者の意見をはじめ、鉄道に対する社会的なニーズを踏まえ、技術行 政の一環として適時適切な基準の見直しを図っていきたいと考えております。 なお、今後とも技術基準の改正に際しては、利用者の意見を適切に反映できるよ う引き続き利用者からのパブリックコメント等を通じて意見をいただくようにいた します。
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