2003.5/18

財団法人 運輸政策研究機構「地方鉄道問題に関する検討会」 御中

「地方鉄道復活のためのシナリオ」への意見

武田 泉(北海道教育大学助教授)

1.この度、本検討会においてはじめて地方鉄道政策を国レベルにおいて仔細に検討され た。このことは従来の幹線・大都市圏中心の鉄道政策からの転換と受け取れ、大いに歓 迎に値するべきものである。また、「地方鉄道は地域の基礎的な社会的インフラ」で、 「地域が一丸となって支えるという視点が極めて重要」という考え方が提示されたこと も、国土交通省再編後の動きとして、また地方重視の動きとして、力強く認識されるも のである。

2.但し今日の我が国の鉄道は、独立採算を原則としインフラも含めて一括所有・運営す る第一種事業が根幹で、かつ鉄道事業法という1本の法律によって大小様々な事業者を 一括して規制・監督する状況である。JR・大手私鉄と中小私鉄、はたまた路線によって その性格が著しく異なるものを一律に政策運営しているため、とりわけ自立採算には程 遠く、地方鉄道事業者や路線は大きく疲弊し、明日の展望のない状況に追い込まれている。

3.その結果、現行法では事業撤退、すなわち廃線が届出のみで地元の承諾が不要となっ たため、法改正後全国的に廃止届出が相次いでいる。にも拘らず、京福線(福井)、万 葉線(富山)、近鉄北勢線(三重)のように、廃止届出後に地元の懸命な巻き返しによ りその運営形態を大きく変えながらも、鉄道の存続を選択する地方が続出している。こ のことは、鉄道をバス転換しても事業者の収支が若干改善したものの、当該地方におけ る地域交通体系には著しい悪影響を与えたことを示すものである。
 また、鉄道の専門知識は一般の地方行政ではなかなか把握しがたい分野であった。か つ、社会資本としての位置付けよりは私的事業資産とみなす考え方が強く、モータリゼ ーションの進展によって制度的にも道路・自動車への公共投資が主流となっていた。こ のため公共事業等の行政施策としての支援が極めて希薄であった点等も、鉄道廃止に拍 車をかけたと考えることが出来よう。
 このようなことは、既存事業者にとっては採算の悪化で手放さざるを得ない路線で あっても、地域にとってはかけがえのない必需的社会資本であるとして、事業者と地域 の認識がねじれている場合においても、鉄道廃止と言う事態を回避し、むしろ地域独自 の交通体系を再構築していく起爆剤となりうるものとなろう。それは、過度のモータリ ゼーションの進展や交通環境対策、さらには公共事業の抑制傾向の中での、既存のイン フラを出来るだけ有効活用するという理念とも合致するものである。

4.このような状況下、地方鉄道がインフラから運営までを一括したまま独立採算を原則 として事業運営していくことは、もはや不可能とみなさざるを得ない。
 このため筆者は、まず上下分離の推進による下(インフラ)の公共セクター等による 保有化と、その制度的担保としての街路事業(特殊街路認定の一般鉄道への拡充)をま ず提案したい。すなわち鉄道軌道敷がモノレール等と同じく特殊街路と認定されること により、公共事業として地方整備局レベルで道路特定財源を広範に導入することが可能 になり、財源問題においてもかなり解決の見通しを持ちうるものととなると考える。
 次に、地方鉄道を軌道事業と同時に、鉄道事業法とは別建ての法律(仮称「軽快鉄道 法」)として法体系を再編統合し、地方都市活性化や地球環境問題に対応した交通環境 対策の起爆剤として構想していくことを強く提案したい。つまり、鉄軌道を専用軌道と 併用軌道とで分けるのではなく、大都市を中心とする採算分野の事業と、地方における 都市の装置としての公共的存在とに分けることである。このような対策が取れれば、今 日欧米から頻繁に報告されているLRT(新型路面電車)の導入や、現行の地方鉄道のリ ニューアルや別路線との直通運転の広範な採用へとつながり、地域交通体系の変革に大 きく寄与するものと確信する。さらには独立採算とは異なった形態の、複数の各社のイ ンセンティブを確保した上での共通運賃制や運輸連合の採用についても、この手法の採 用により大きく前進するものと確信する。
 とりわけ今日まで残存する路面電車も、市街地の既存路面電車区間のみの運営では将 来的に発展性が乏しく、郊外路線との直通運転や結節性の確保がきわめて重要である。 国内では広島等で少数行われているのみであるが、欧米ではドイツのカールスルーエ等 をはじめとして広範に実施されており、市街地空洞化を阻止する効果も現れている。特 に国鉄線と路面電車の乗り入れは画期的であり、我が国では将来JR線へ路面電車が乗り 入れたり、各線の既存事業者からの事業主体の流動化が生じれば、よりインセンティブ が高まるのではないだろうか。従来の各社グループ毎の競争促進の体制ではなく、地域 全体での連携を重視することによって、地域の交通体系全体がより活性化すると考えら れる。

5.今後の経営形態別のあり方について述べる。
1)中小私鉄は前述のように疲弊しており、満足な施設の更新もままならず事故の発生 にもなりかねない状況である。鉄道総研等の安全検査による出費増はむろんのこと、バ リアフリーその他による新車の導入、安全対策としての近代化補助の際の半額の持ち出 しすら、現在の地方鉄道にはそうした体力が存在しないのである。新車導入や安全対策 、軌道施設更新について抜本的な政策の転換と手厚い援助が必要である。

2)転換鉄道も、初期の転換交付金等による経営安定化基金対策では昨今の低金利時代 には全く機能するものではない。上下分離の推進や地方政府のより積極的な参画が強く 求められよう。また、JR等他路線との乗り入れや直通運転は不可欠と考える。

3)路面電車も中小鉄道と全く状況は同じであり、半額補助等では全く息を吹き返せな い状況にある。前述の法体系の再編とそれによる抜本的なスキームの変更によって、LR T化や新規導入を積極的に図っていくことが重要であろう。またJRや郊外私鉄路線との 直通や一体的運営も強く求める。このためには、地域における将来の共通運賃制や運輸 連合も視野に入れた交通社会実験を是非とも実施すべきである。

4)並行在来線は、地方の要請による整備新幹線建設時にJRの採算悪化を図るため、政 府与党合意として実施されてきた事項である。この地方側が在来線分離に合意するとい う点は法律では全く位置付けられておらず、むしろ地方行政にとっては一方的に不利益 を背負わされる結果にもなっており、まさに整備新幹線による「人質行政」の感さえも する状況となっている。とりわけ、分離区間の定義が不明確であるため、JR側の主張が クリームスキミングの状況となってもそうした主張が通るような状況となっており、地 域交通にとって著しく不合理な事態となっている。今後の経営分離区間の確定にあたっ ては、その条件や手続きを明確化するだけでなく、区間を条件に合わせ厳格に確定すべ きである。また経営分離区間にJR線からの直通列車が比較的多数運行される場合は、第 2、3種事業を活用してJR賃率による運賃通算性が確保される方法を工夫すべきである。 またダイヤ面でも、並行在来線側でも快速列車等の優等列車の運行や優良車両の導入で 、新幹線とも競争するような積極的な運営が求められていると言えよう。

5)JR、大手私鉄等のローカル線区の場合は、本社側の過度な合理化・効率化要請のた め、投資が著しく抑制され、消極的運営に終始し、そのため乗客減少を招くと言う悪循 環に陥っている。また車両面でも、過度なワンマン化や低品質化(車両削減やロングシ ート化による座席減少による混雑激化や、便所やデッキ、窓カーテンの撤去等)がなさ れ、駅施設においても、無人化、駅窓口営業時間の短縮、関連店舗重視による駅施設の 利用悪化等により、乗客離れを招いているケースも多々見られる。さらにはJR側が、収 益確保を狙う余り国鉄時代からの他の事業者との協調関係(共同使用駅の取りやめ、直 通運転の中止等)から手を引くようなケースも散見されている。このような場合は、JR や大手私鉄の運営というよりは地元事業者に委ねた方が適切な場合が少なくない。JR西 日本の富山港線、吉備線の路面電車化の示唆に見られるような大胆なスキームの変更に よる、再活性化の模索等が抜本的に必要と考える。

以上