財団法人 運輸政策研究機構「地方鉄道問題に関する検討会」 御中
「地方鉄道復活のためのシナリオ−鉄道事業者の自助努力と国・地方の適切な関与−」についての意見
T 今後の地方鉄道の在り方(総論)について
■当検討会において、地方鉄道政策を国が検討し、「地方鉄道は地域の基礎的な社
会的インフラ」「地域が一丸となって支えるという視点が極めて重要」という考え
方を提示されたことを大いに歓迎したい。また、採算の確保が相当困難な地方鉄道
の存続の是非については地域において判断し、採算の確保が相当困難であっても地
域の判断で存続させることができるという考え方は、従来の独立採算を前提とした
鉄道事業の考え方を転換するものであり、大いに評価したい。
但し、「地域にとって鉄道が不要と判断される場合は廃止已む無し」については、
存続の是非の判断を国・地方自治体、事業者、住民・利用者が協議する場において
行い、住民・利用者が判断に必要な情報を、国・地方自治体、事業者が適切に提供
する仕組みが前提になければならない。現状では、鉄道存廃問題における市民の鉄
道存続のコンセンサスは、行政が的確な判断を行い、かつ、偶然そこに的確な活動
を指導できるリーダーの存在があれば導き出せるが、行政が故意に廃止を画策し、
或いは住民側にリーダーが不在であったり、活動方法が不適切な形のものであった
場合、存続のコンセンサスに到達することが不可能となる可能性が大きい。鉄道存廃
問題が発生した地域において、鉄道の存続を目指す住民が存在する場合、その道筋
を提示或いは例示するなど、地域の的確な判断につながる情報提供をお願いしたい。
■地方鉄道復活のためのキーワードとして「鉄道事業者の自助努力と国・地方の適 切な関与」を求めているが、少なくとも中小の地方鉄道事業者は、現状でも十分努 力をしている。しかし持ちこたえられなくなりつつあるのが現状である。それを前 提に、迅速な「国・地方の適切な関与」をお願いしたい。
■「地方鉄道とJR、大手民鉄等との連携の推進」として、地方鉄道(路面電車を 含む)とJRとの直通運転化を例として取り上げたことを大いに歓迎したい。 各地の路面電車と周辺の地方幹線・ローカル線とが、再編・直通運転によって相互 補完関係を構築しうるケースはかなり存在すると考えられる。ヨーロッパではカー ルスルーエの成功によりトラム・トランが普及しつつある。先にJR西日本から発 表された富山港線と吉備線のLRT化の構想はそういった意味ではわが国でのLR Tの急激な普及を予感させるものであり大いに賛意を表したい。今後も是非、両線 に留まらず、路面電車と地方幹線(並行在来線を含む)・ローカル線の再編・直通運 転によるLRT化を推進して頂きたい。
■地方においては競争政策、独立採算とは別の交通政策を必要としている。ヨー ロッパ型の、複数の事業者が共同でネットワークを運営する交通政策が地方には適 合すると考えられる。そのヨーロッパ型の交通政策でも競争・経営合理化のインセ ンティブは働くようになっている。現在の地方における競争政策下の交通体系で は、JRと私鉄とバスが競争して無駄な重複を生じ、ともに疲弊し、ネットワーク 化を避ける施策が進み、公共交通全体が機能不全に陥っているのが現状である。地 方におけるヨーロッパ型の交通政策への早急な切り替えが必要である。
■現在、道路整備は、道路特定財源や地方交付税等の公的資金により行われるのに 対し、鉄道の整備・維持・改良は現在に至るも未だに鉄道事業者の独立採算に任さ れているのが現状である。こうした財源の構造こそが鉄軌道の相対的競争力低下に つながってきた。よって早急に地方交付税制度を改めて地方自治体の鉄道への投資 の基準財政需要額への算入を認めるべきである。本来、地方鉄道も適切な投資が行 われれば、速達性の発揮などにより車社会においても大きな役割を果たすことが可 能である。投資の総量に限度を設けながら、地方において道路への投資と鉄道への 投資を選択できるようにすることが必要である。
■「鉄橋・トンネルなど、鉄道の施設の維持・更新に税金を投入するコンセンサス は、皆が自動車を使い、鉄道を使わない現状では得られていない」とする国土交通 省関係者のお話を伺ったが、輸送シェアに相当する交通への公共投資はコンセンサ スが得られていると考えるべきではないか。過去・現在を見る限り、公共投資は道 路に傾斜して行われているということになる。そのコンセンサスがあるとは考える べきではない。輸送シェアに見合った予算配分を実施することを提案する。
■保有と運行の分離について、「地域において検討し」「国は適切な支援をしてい く」とされたことを大いに歓迎したい。上下分離を推進し、下(インフラ)を公共 セクターが保有し、インフラの維持・改良を公的資金で行うことで、名実共に鉄道 を「地域の基礎的な社会的インフラ」として頂きたい。下を公共セクターが保有す ることは、鉄道を地域のまちづくりに組み入れ住民・利用者の参画を促進する上で も有効であるし、地方交付税の基準財政需要額に算入する前提とできると考えられ る。また、地方鉄道存立のボーダーラインを下げることにつながると考えられる。
U 今後の形態別地方鉄道の在り方(各論)について
1 中小民鉄
■鉄道総研による地方鉄道の安全検査により十数億〜百数十億にものぼる出費を求
められるケースがあるが、それによって廃止が検討されるケースが出てきている。
安全検査の制度を創ると同時に、安全検査の結果必要となる補修費用を補助する制
度を創らなければ片手落ちではないか。今のままでは安全検査が地方鉄道の廃止を
促す制度になる。安全検査実施による廃止が現実のものとなる前に、早急に安全検
査と連動する鉄道施設の根本治療の財源制度を創ることを提案する。
■地方鉄道の中にはLRTとして再生させる有効な構想も存在するが、地方鉄道は 長年の道路偏重の政策により相対的に競争力を弱め続けた結果、どこも疲弊してい るのが現状である。現在、LRVを導入する場合にバリアフリー補助制度により国 と地方自治体が車両導入費用の50%までの補助を行う枠組みが存在する。しか し、疲弊した地方鉄道には残りの50%を支出する余裕が無いのが普通である。疲 弊しつつも活性化の可能性が大きい場合の根本治療の枠組みとして、国と地方自治 体が車両導入費用の大部分の補助を行う制度を創設する必要がある。
2 転換鉄道等
■経営安定化基金方式による転換鉄道の維持スキームは、昨今の低金利政策下では 既に機能しなくなっている。これは放置しておくべきではなく、国も何らかの新たな 枠組みを示す必要がある。例えば、上下分離方式を導入するだけでも存立のボー ダーラインを下げることは可能ではないだろうか。新たな指針の提示をお願いしたい。
■転換鉄道においても鉄橋やトンネル、擁護壁等、耐用年数を過ぎている鉄道施設 の維持・更新の財源の問題は放置するべきではない。地方交付税制度を改めて、地 方自治体の鉄道施設維持・更新の投資の基準財政需要額への算入を認めるべきでは ないか。総量に限度をかけながら、地方において道路への投資と鉄道への投資を選 択できるようにすることを望んでいる地方は多い。
3 路面電車
■各地の路面電車にもLRT化の構想がある。しかし中小私鉄の場合と同様、LR
V導入の場合の事業者負担部分を支出できる財力が無い事業者がほとんどである。
欧米でのLRTの成功を目の当たりにしながら、わが国でのLRTのシステム導入の
スピードはあまりに緩慢ではないだろうか。路面電車復権・有効なTDMの方策が
存在するのに普及しないのは補助制度に無理があるからではないだろうか。やは
り公共投資による根本治療としての車両導入補助制度が必要だと考えられる。
4 並行在来線
■地方における鉄道事業の継承を行うにあたっての費用的ハードルが高すぎる傾向 がある。第2種鉄道事業・第3種鉄道事業の活用も含め、ハードルを低くし、事業を 継承しやすくする必要があるのではないだろうか。また、一本の並行在来線がJRと 県ごとの事業者に細切れにされ県境・事業者境界を越える度に初乗り運賃が加 算される方法が採られる傾向があるが、これは鉄道としての利便性を著しく低下さ せ、ネットワークとしての機能を著しく後退させるものに他ならない。地方幹線が 並行在来線として再スタートを切るにあたって、県ごとの消極的な路線継承ではな く、並行在来線が路線ごとに一体的運営と運賃体系が採られるよう、交通政策とし て対処して頂きたい。
■並行在来線のJRからの分離対象の規定は「並行在来線を分離」となっており 「JRの経営継続を希望しない区間を分離」ではないはず。厳密に取り扱うべきで ある。JR寄りのサジ加減を行うことによって並行在来線を捨てるのではなく、健 全に運営できる基盤を設定する方が鉄道全体として社会に寄与するはずである。ま た、仮に、本来の取り決めが「JRの経営継続を希望しない区間を分離」となって いるのであれば、これは鉄道ネットワーク全体の健全性を著しく損なうものである ので、本来あるべき「並行在来線を分離」に修正する必要がある。
5 JR、大手・準大手民鉄のローカル線
■国鉄がJRになって以降、高額の施設使用料が原因で地方鉄道とJRの直通運転 が廃止されたり、共同使用駅が分離されて乗り換えが極端に不便になった例は非常 に多い。これは明らかに鉄道サービス全体の後退を促す要因であった。これは乗客 からすれば非常に不思議なことで、単に市場原理に拠らない、社会資本としての良 心的な鉄道政策を行って欲しい。
■可部線廃止問題で露呈した、耐用年数を過ぎた鉄橋・トンネル・擁護壁の維持・ 更新・災害復旧の財源がどこにも用意されていないという問題は、全国のローカル 線共通の問題である。そのために事業者自らが利用阻害を行って、その後廃止を申 請すると言うマイナスのビジネスモデルが普及しつつあるように思う。これは社会 を市場に委ねる政策の結果であるが、今一度、「社会」と言う立場に立って、社会 資本の取り扱いを考え直す必要がある。また、鉄道ネットワークの輸送シェアから すれば、鉄道施設の維持・更新・災害復旧に税金を投入するコンセンサスは十分に 取れていると考えるべきである。そして、現在既に、国と地方と事業者の間におい て、そのスキームを検討しなければならない時期に来ている。
■競争政策下において、競争関係にある鉄道同士が切磋琢磨することは好ましいこ とである。しかし現状ではこの競争がJRと私鉄の支線区の廃止を促進する方向へ 展開し始めている。競争政策の下では経営資源の集中、一人勝ち指向は当然の企業 行動であろう。また、ある程度競合しながら相互補完関係にあったり、事実上ネッ トワークを形成しているケースは多いが、競争の要素が強まったために、ネット ワークとしての利便性向上施策が中止され、或いは進展しないケースが出てきてい るのも現状である。これらは明らかに競争政策の強化が負の効果を発揮しているこ とを示している。競争政策は、一部の人にメリットをもたらすものの、それ以外の 人にはデメリットをもたらす性格のものであることを十分に認識して頂き、制限の 無い競争ではなく、政策に律せられた、一定の枠のなかでの競争の仕組みに改めて 頂きたい。
V おわりに
今回の「シナリオ」は地方鉄道を地域の基礎的な社会的インフラとして国と地域 で支える考え方を示したものとして大いに歓迎したい。しかし、これを具体化する ためには、鉄軌道事業を独立採算を前提とした営利事業として位置づける現状の 法制度(鉄道事業法・鉄道営業法・軌道法等)では限界がある。整合性のある新たな 法制度・財源制度の創設を行うことが必要不可欠である。早急な対応をお願いしたい。
以上