2002年1月16日
国土交通大臣
扇 千景 殿
陳 情 書
利用者の声を十分に反映させた鉄道の復権について
全国鉄道利用者会議
代表:武田 泉
(北海道教育大学助教授)
<陳情主旨>
時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、今年度は国鉄分割民営化14周年にあたります。民営化後の特殊会社JRは(三島を除いて)運賃を値上げすることなく今日に至り、完全民間会社としての基盤を確固たるものにしようとしています。この改革は今日最大の政治課題である「行政改革」や「規制緩和」を先導した側面もあって、総論的には国内のみならず海外でも高く評価され、このような英断を下した国土交通省には衷心より敬意を表するものです。
JR各社は、分割後は本当に血のにじむような合理化努力により今日に到ったものと推察されます。しかし、民営化されたとはいえ地域独占を許容された公共鉄道であることに変わりはなく、不採算部門といえども安易に切り捨てることはできないはずです。民間会社としての経営が軌道に乗ったとしても、その合理化・効率化が逆に利用者サービスの低下を伴う事例があることに我々は強く留意します。そして、そのサービス低下に対して改善を求める声が上がりながら、本質的な改善が全く行われていない事実があることは誠に遺憾なことであります。
また都市圏では一向に改善されない通勤ラッシュの問題、また地方民鉄においては経営の弱体化等鉄道の現状改善の急務な課題も山積しています。
今後の21世紀は、環境重視社会であります。また高齢化社会や国際化の進行が進みます。人や物資の移動をクルマに過度に依存した現代のエネルギー多消費型社会は、環境保全の面では大きな問題があるといえるでしょう。我々は、環境にやさしい大量輸送機関である鉄道に大きな期待を持つものです。その意味でも、サービス低下により、利用者が鉄道からクルマの利用に離れていく現状に強い危惧の念を持ちます。
昨今のクルマに押されがちな鉄道の復権を願い、我々は下記の項目について抜本的な改善が必要と考えます。よろしくご検討いただきたくお願い申し上げます。
1.鉄道輸送に「着席率」の概念を明確にして、すべての輸送統計データに記すとともに、着席率を上げるような施策を講じるよう鉄道事業者を指導していただきたい。
日本の鉄道輸送では、輸送力や混雑率ということは考慮されても着席率の概念がなく、改善がままならない世界有数の殺人的ラッシュが温存されるばかりか、暴力事件の温床にもなっています。鉄道営業法では、第15条2項にもあるように「全員着席」が基本理念だと思われます。一極集中による大都市圏の混雑は、「輸送」が精一杯で着席まで手が回らない状況にあることは理解できますが、最近、さほどの混雑でもない地方に当初から定員の半数以上の立席定員を想定した電車が導入されています。 そのような電車は「輸送」という面で考えると効率的ですが、中長距離乗車の快適性を考えると明らかに劣ります。中長距離を移動する交通機関で着席の保証がないのは鉄道だけです。
また、普通鉄道構造規則第194条1項によれば、客室内は快適でなければなりません。そのような快適性の面で鉄道とクルマを比較すると、「座れるとは限らない」ということだけで鉄道は明らかに劣ります。そもそも、中長距離区間を運行しながら、半数以上を立席定員で輸送しようという発想自体に大きな問題があります。更に高齢化社会を迎えるにあたり、着席はバリアフリーの基本であると考えます。
我々は、利用者をクルマから鉄道に引き戻すには、この「全員着席」ということがポイントだと考え、下記の項目について国土交通省の規制対象に取り入れ、普通鉄道構造規則等の法令の改正を行っていただくよう以下の点について要望致します。
@鉄道輸送サービスの根底となるデータに着席率の概念を取り入れ、各線区ごとの着席率を公表していただきたい。
A国土交通省の許認可項目に着席率を追加して利用者保護を図っていただきたい。
B中長距離区間の運用車両については、一定の着席率を確保するよう義務づけていただきたい。
C鉄道事業者には、この着席率を向上させるような施策を講じるよう指導していただきたい。
D新型車両の設計の承認においては、着席率に一定の下限を設けていただきたい。
E最近、こうした着席率が大きく低下しているような地区においては、早急な改善策を講じるように鉄道事業者を指導していただきたい。具体的には、首都圏中距離区間の東北線、宇都宮線、高崎線、東海道線、横須賀線などで着席率が大幅に低下しています。
F駅ホームや改札内においての待合室の設置(復活)や駅のベンチの増強をしていただきたい。鉄道施設全体で着席率を向上させていただきたい。
2.鉄道利用者の保護について
鉄道は他の陸上交通網に比べ、安全性、定時性、環境・エネルギー面等の点で優れており、特に安全性の高さは最大の利点であるといえます。そのため、鉄道を交通体系の根幹に位置づけ、利用促進の向上を図るために、鉄道利用者の不満・不利益を可能な限り解消していくよう、以下の点について制度の改正、施策の実施を要望致します。
@安全性の確保について
(1)地下鉄日比谷線事故や京福電鉄事故など、鉄道の重大事故を調査・解明する、第三者機関を実質的に機能するようにしていただきたい。
(2)山陽新幹線のコンクリート剥落に見られる、手抜き工事を原因とするインフラの劣化は、大震災における高架橋の倒壊といった大惨事を招きかねない。高度成長期以前に建設された全鉄道路線について、調査・補強工事を行い、その結果を公表するよう、事業者に指導すること。また、調査・補強工事に係る費用を国が助成すること。
A定時運行の確保と遅延・運休時の対応について
(1)ダイヤ改正(運行計画の変更)の際、混雑路線や高速列車に設けられている「余裕時間」を審査すること。
(2)列車の遅延・運休等の情報が現地に行く前にわかるようにすること、運転再開の目途、迂回可能な手段等の情報が、被害を被った利用者にいち早く伝達される手段を確保するよう、事業者に指導していただきたい。
(3)他社線や高等列車を乗り継いで迂回が可能な場合には、追加で発生する費用が利用者に不利にならないように鉄道営業法に係る制度を改正していただきたい。
B運賃・料金について
(1)大都市圏において、利用する鉄道事業者に関係なく距離に応じて運賃を計算する、共通運賃制度の導入、フリー乗車券(ローリングタイム制も含む)を設定していただきたい。また共通運賃制の導入を前提とした交通社会実験を実施することを検討していただきたい。
(2)在来線特急の乗り継ぎ、ミニ新幹線と在来線の乗り継ぎ、東京駅での新幹線乗り継ぎの際に、現在は特急料金を別々に計算した合算額を請求され、払い戻し手数料も別々となっている。運行の実態は直通運転であるので、通算が可能な制度に改めるようにJR各社に指導していただきたい。
(3)相互乗り入れしている電車双方に相手方の鉄道網を掲載した路線図を電車内に掲示していただきたい。
(4)全国のJRと民鉄やバス事業者も含めた共通のプリペードカードや非接触型カードを早期に実施していただきたい。
(5)長期間継続的に発売してきた特別企画乗車券を、廃止又は利用条件変更する場合も、実質的には運賃及び料金の変更に当たるため、事前に2ヶ月程度の周知パブリックコメント期間を設定し、届出基準を定めて国土交通大臣への届出を義務化していただきたい。
(6)東京の都営地下鉄と営団地下鉄は共通運賃制となるよう具体的施策のスケジュールを提示していただきたい。
C新幹線の相互乗り入れについて
現在東京で分断され乗り換えを強いている東海道と東北上越新幹線を相互直通運転と特急料金の通算を行うようにしていただきたい。また、既存の新幹線経由の運賃が実キロではなく在来線経由となっており、並行在来線の区間と異なる扱いとなっている。新幹線の実キロにより営業キロ計算するように改めていただきたい。
D津軽海峡線の運賃特例の実施について(石勝線方式の導入について)
快速海峡が廃止されると本州と北海道は優等列車のみの運行になる。これでは実質的な運賃値上げに等しく鉄道に対する利便性を低下することになる。同区間について実質的に値上げにならないように、石勝線(新夕張〜新得間)方式のような特例も含め検討するようにしていただきたい。
3.特定地域においては、新型列車の導入に伴い鉄道利用者の利便性が著しく阻害されています。鉄道事業法第23条の規定に基づき、車両ならびに列車の運転計画に関しては、事前にアセスメントを行う等、より適切に改善処置を命じていただきたい。
JRの民間会社としての経営合理化・効率化が、不採算地区のサービス低下をもたらしていることはたびたび触れましたが、特にJR東日本管内では極端な施策が行われています。東北の寒冷地に導入された701系ロングシート電車については、鉄道有識者からの批判の声も高まっています。長時間乗車が多く高齢化の激しい東北では、このようなロングシート電車は地域の利用実態には到底そぐいません。
JR西日本ではトイレなし列車の長距離運用が行われ、人権上も大きな問題があります。利用者は何度もJRに改善を申し入れていますが、根本的な改善は一向に図られる気配がありません。利用者としては、現行の普通鉄道構造規則第196条第1項に掲げられた「適切な数の旅客用座席の設置」では不十分であり、同規則の早急な改善・改定を強く求めると共に、もはや鉄道事業法第23条にいう改善命令に期待するしかない状況にあります。以下の点についての改善を要望致します。
@東北の寒冷地の中長距離区間に導入されている短編成の701系ロングシート電車に関して、「増車」「ボックス型への改造」「車内暖房の抜本的改善」を命じていただきたい。
具体的には、
(1)朝夕の通勤通学時における2両短編成による運行を廃止し、4両編成での運行を命じていただきたい。
(2)盛岡・一ノ関間は岩手県中央の平野部に点在する県内主要都市を縦断する重要路線であり、中長距離利用者が多いといえます。利用者の利便性のためにも、ボックス型への早急な改造を命じていただきたい。次善の策として、
(a)仙台地区の719系と盛岡地区の701系とのトレードを検討していただきたい。
(b)盛岡地区でも秋田地区のような中間車(サハ701)をはさんだ3両編成を導入し、その中間車にはボックス席を設置していただきたい。従来車は順次ボックス席付きの車内に改造していただきたい。
(c)北海道の721系と同様の(転換)クロスシート車を東北に導入することも検討していただきたい。
(3)全国的にワンマン列車の乗車位置やその取扱い(時間帯、曜日、実施駅)がまちまちであり、利用者は混乱するばかりで、誤乗車が絶えないばかりか通常乗らない乗客が乗車できずに発車してしまった事例も存在する。もし、ワンマン運転がどうしても必要というなら、一方的な実施ではなく説明責任を果たせるようにし、それができないなら実施を中止すべきである。
(4)寒冷地を走る車両として、車内温度が10度にまで低下するような車両は地域にあった電車とはいえません。冬季の暖房方法について抜本的な改善を図るよう命じていただきたい。
(5)盛岡・一ノ関間にも、秋田・青森・宮城(仙台・小牛田間)に導入されているような快速列車を導入していただきたい。
(6)田沢湖線の701系や秋田で3両だけ改造されたものや大糸線のE127系に設置されたボックスシートは背もたれ部分が低く長時間乗車には適していないことから、背もたれ部分を高くするように指導していただきたい。
A北海道に導入され701系と同様の車内構造を持つ731系・キハ201系のロングシート車両については、その運用範囲を札幌近郊部に限定し、これ以上の車両の増備計画を見直すよう強力に指導していただきたい。
B山陰線等の中長距離区間に導入されているJR西日本のキハ120系では、トイレなし列車の長距離運用が行われ人権上も大きな問題になっています。早急な改善 処置を命じていただきたい。
CJR西日本がローカル線で実施している特定曜日の間引き運転や減速運転、必要以上のワンマン運転を中止させていただきたい。
4.鉄道事業法に、消費者保護や第三者によるアセスメントの規定を設け、鉄道輸送サービスに利用者の声が十分に反映されるような制度を確立していただきたい。
JRの経営上は画期的な合理化が図られても、そのしわ寄せが利用者へのサービス低下という形で現れる場合があります。例えば、JR東日本が東北地方の寒冷地に導入した短編成ロングシート電車、JR西日本やJR四国が導入したトイレなし列車の長距離運用、JR各社が行っている駅待合室の撤去など枚挙にいとまがありません。問題なのは、それに対して利用者が改善を申し入れても何ら根本的な改善が図られていないということです。民間企業であるがゆえに、地元の自治体はJRにお願いすることしかできません。行政監察(評価)局といえども民間企業の経営判断には口出しできないのが現状です。独占禁止法では鉄道事業はその適用を除外されています。ここにおいて、利用者は全くJRのなすがままです。苦情を言っても聞き入れられないのでは、利用者は鉄道から離れていくしかありません。それは、大量輸送機関をJRのみに依存している地方にとっては、単に一民間企業の合理化努力云々の問題ではなく、さまざまな面で重大な影響を及ぼします。
我々は、「鉄道利用者を消費者として保護するシステムが存在しないこと」に問題があると考え、以下の点の改善を要望致します。
@利用者の声を適切に吸い上げるためにも、(当面の施策として)地方運輸局に利用者(苦情処理)専門担当官や苦情110番やホームページ上の専用サイトを設置して鉄道事業者に国土交通省を通して利用者の声が届くようにしていただきたい。
A鉄道事業法第1条でいう「利用者の利益を保護する」ため、利用者の苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備を図り、利用者の声に敏速に対応するよう鉄道事業者を指導していただきたい。
Bその地域の鉄道利用状況にそくして、運用区間に応じた適切な車両を導入するよう鉄道事業者に義務づけていただきたい。
C新型車両導入、ダイヤ改正、駅舎の改築・レイアウトの変更等に関しては、その計画段階から情報公開して第三者も交えたアセスメントを行い、利用者の意見を聴取・反映させるような制度を検討していただきたい。
D利用者に列車の接客設備面の情報を提供する意味で、ロングシート車、トイレなし列車、そして寒冷地におけるデッキなし列車については、そのことを逐一時刻表に明示するようにしていただきたい。
5.情報公開と住民参加による鉄道交通行政の改革について
省庁再編により国土交通省が発足し、交通政策審議会の発足、国土交通地方懇談会の開催など新たな動きが始まると共に、インターネット上での情報公開や意見聴取等の機会も増加しつつあるように見受けられます。一方、鉄道事業法やJR会社法の一部改正など、住民・利用者の利害に係わる法改正もなされました。旧来の鉄道交通行政を、住民・利用者主体のものへと改革すべく、以下の点について要望致します。
@旧運輸省の様々な審議会が改組されて発足した交通政策審議会では、道路交通が旧来同様所管外となっている。そのため、道路審議会との連絡会開催等、道路交通と公共交通を一体的に議論する場を設置すること。また、交通政策審議会の委員に住民や利用者・NPOの代表も公募して含めていただきたい。
A2000年度末より国土交通地方懇談会が全国10ブロックで開催され始めたが、地方自治体の長や経済界代表だけでなく、住民や利用者・NPOの代表も公募し、意見を聴取していただきたい。
B道路特定財源の一部を、鉄道整備や国鉄の長期債務返済に充当することを検討していただきたい。
C鉄道路線の新設や廃止、ダイヤ改正、駅舎改築については、沿線住民の生活に多大な影響を及ぼすため、地方自治体や利害関係人のみならず、沿線住民の意見も聴取し、その同意を前提として実施すること。また、住民への情報公開手段として、第三者機関によるアセスメント制度を導入していただきたい。
D国土交通省のパブリックコメントのうち旧運輸省関連は、提出された意見の内容とそれへの対応結果が事実上公開されていないに等しい。少なくとも、旧建設省関連のものと同レベルまで公開すること。また、意見提出者に対しては、条文や答申文など、対応結果を示す文書を送付していただきたい。
E鉄道事業の基本計画策定や、施策の評価・見直しを、国土交通省・地方自治体・鉄道事業者・住民・利用者・NPOが同じ立場で議論し進めていくための場の設置を検討していただきたい。
6.新駅設置について
国鉄改革から14年経ちますが、新駅設置は一向に進んでいません。地方公共団体によるJRへの財政支援措置の禁止がその根拠ですが、利用者にとって新駅設置は利便性の向上につながり、また地域活性化にもつながります。新駅設置に向けた法改正及びその促進をする法と財源を確保していただきたく、以下の点について要望致します。
@高速道路のバスストップや幹線道路(一般国道や主要地方道のバイパス他)と鉄道駅を連接させ、ビジネスや観光の拠点として整備していただきたい。特に高速道路で常時混雑している地域では定時制の立場から必要であると考えます。
A地方空港(例えば米子や花巻、福島、旭川、女満別)では鉄道と空港が数キロしか離れておらず連携することによって利便性の向上が図られるものと思います。現行の線路を移設することについて、空港整備特別会計も含め新たな財源措置や制度の確立等を政策的に検討していただきたい。
B鉄道同士の立体交差している箇所(例えば横須賀線の武蔵小杉付近)については新駅を設置できるような支援制度を創設していただきたい。
7.交通環境対策としての鉄道利用の促進
地球温暖化防止京都会議議定書により、各国政府は真剣に温室効果ガスの削減に取り組まなければならない中、我が国ではこうしたガスの伸びが旅客運輸部門、とりわけマイカーによる伸びが著しいとされている。CO2削減やエネルギーの効率を考えた場合、自動車に比べ鉄道の優位性は明らかかつ絶対的でもあり、たとえローカル線の非効率と考えられる路線であっても燃料消費面から鉄道の方が環境対策として適切となっている。このことは、温暖化防止の観点からも鉄道利用の促進は政府を挙げて取り組むべき状況にあるはずである。
しかしながら、現在のわが国では環境交通対策の主眼はエコドライブや道路管理、海外から輸入した手段であるTDMやIT活用等の文言であり、自動車や道路利用の環境対策ばかりが目に付く状況である。その一方、鉄道事業者における環境対策では、新技術活用による省エネルギー化と鉄道周辺施設や事務部門におけるリサイクルの推進や新エネルギーの利用、鉄道林の再造成のみに限定されている。このため北欧での「風力電車」のような動力源への新エネルギーの活用等は皆無である。むしろ、自社のローカル線鉄道の利用を意図的に抑制し、逆にレンタカー子会社の優遇を行っている事例さえ散見される。このような事実は、効率化や民営化に力点を置きすぎるあまり、事業者のみならず政府も含め、運輸部門の環境対策や意識改革を本気で行うつもりのないことを世界に向かって表明しているようなものである。国土交通政策の方向性の抜本的変革が必要なことを自覚なされているかが大きく問われていると言えるが、どのように認識されているか説明していただきたい。
8.鉄道関連の法体系の抜本的見直しと地方鉄道の再生
現行鉄道事業法は、国鉄改革時に制定されたものだが、国鉄の変革という時間的余裕のない中で取りまとめられたため、軌道法や都市モノレール法との統合は見送られ、建設運輸の縄張りはいまだに残存しているのである。そもそも建設省と運輸省は、従前の内務省・鉄道省以来の犬猿の仲として著名であり、こうした「役所の都合による法体系」によって地方自治体の蒙った不利益・非効率は計り知れないものである。また戦後すぐの国鉄分離時には現業機関たる国鉄に政策立案機能や実質的建設予算も移行し、現在では上下分離をしないまま、それらがそっくりとJRという民間会社に移行してしまった。こうした影響は、路面電車が旧態依然とした規制の網に甘んじざるを得ず、新型のLRT導入や施設の抜本的改良ができない、地方鉄道が大都市と同様の採算裡の運営が強制されるため、安全対策や設備投資が疎かになる、等に見られるような支援制度は無きに等しい状況となっている。つまり地方都市においては、鉄道運営は危機的状況にあるのである。規制緩和・競争促進政策は、大都市においては競争による改善が顕在化したが、地方においては、参入撤退の自由が強調されることになった結果、事業者側の届出のみで路線の廃止が可能となり、廃止予定路線は増加傾向にある。また鉄道事態の衰退が一層目立つようになりつつある。国土交通省本省においても、大都市や幹線鉄道以外の地方鉄道を所管するセクションは設置されておらず、ないがしろにされているばかりか、全国一律の鉄道事業法の限界により、鉄道運営の弱体化や鉄道離れを誘発しているとも受け取れる状況が増大している。
戦前には、地方鉄道敷設に有利な軽便鉄道法が存在したが、今後は上下分離と共に新たに簡易な形態も含めた法体系(仮称 地方都市鉄道法・LRT新法)へと鉄道事業法から分離することが肝要である。また同法では、軌道法や都市モノレール促進法を廃止し、そうした要素も取り入れて、道路特定財源等の建設予算を抜本的に確保できるようにもすべきである。つまり、道路用地に鉄道も敷設可能にすべきである。また上下分離を拡大し、下の部分は比較的公的なセクター、上の部分は民間に委ねるなどの、法体系や許認可基準の抜本的見直しが不可欠と言えよう。鉄道の衰退によって利用者がマイカーに移行し、マイカー利用ばかりが温存・拡大されることは、逆に言えば鉄道局所管の施策の低下を意味するものである。小泉内閣の「都市再生」に地方都市も加え、そうしたプランが地方の鉄道の活性化に十二分に資するように見直していただきたい。
以上の項目についての御所見をいただきたくお願い申し上げます。