国土交通省道路事業評価手法検討委員会

「第5回道路事業評価手法検討委員会へ」→「委員会資料」→「資料3-2.地方公共団体意見照会及びパブリックコメントにおける主要意見への対応について(今回改定において反映しない事項)」

この最後の項目に「1.費用便益分析マニュアル(案)」に対する当会の意見への回答があります。

対応方針「今後の検討課題」
対応の考え方「本マニュアル(案)は、現時点における知見により十分な精度で計測が可能でかつ金銭表現が可能なもののみを計上したもの。
この他の効果項目について、十分な精度で計測し、金銭表現が可能とするための手法については、今後の検討課題。 なお、事業による生活環境・社会環境への影響については、アセスにおいて評価されることになっている。」


2003年5月9日

国土交通省道路局企画課道路事業分析評価室 御中

道路・街路事業における「費用便益分析マニュアル」及び「客観的評価指標」に対する意見

全国鉄道利用者会議
  代表 武田 泉
政策企画局 清水孝彰

1.費用便益分析マニュアル(案)について
<ページ番号>16「3.費用の算定(1)費用算定の考え方」
<原文>
 費用としては、道路整備に要する事業費(用地費を含む)及び、維持管理に要す る費用があげられる。
<意見>
 道路の整備・維持管理の直接経費のみでなく、下記のような道路整備に伴う社会 的な減収・支出を費用として算定し、上乗せして頂きたい。
・新たに発生する大気汚染・騒音・振動等の環境対策費
・新たに発生する交通事故補償・安全対策費
・中心市街地空洞化による商店街の売上減少見込
・移動手段のマイカーへのシフトによる公共交通機関の利用減少見込
<理由>
 直接経費のみを費用として費用便益分析を行ってきた結果が、大気汚染を始めと する環境破壊、交通事故、中心市街地空洞化、地方の公共交通機関廃止などの、深 刻な問題につながっている。道路整備は、これらの社会的な問題を費用として算定 し、上乗せしてもなお便益が大きい場合のみ、必要性があると言える。

2.客観的評価指標(案)について

<指標番号>0-1
<対象道路種別>すべて
<原文>
●費用便益比≧1.5
<意見>
 事業の効率性は道路整備のみで評価するのではなく、公共交通機関、とりわけ鉄 軌道の整備(新設及び既存路線活用含む)と同じ土俵に乗せ、比較評価すべきであ る。「道路の渋滞・大気汚染・温室効果ガス排出などの問題点を、鉄軌道の整備・ 利用で解決することが困難で、かつ道路を整備した方が鉄軌道を活用するよりも安 価である」「道路を整備しても並行する鉄軌道に負の影響を与えない」ことを評価 指標として頂きたい。
<理由>
 鉄道は道路・自動車よりも、安全性、定時性、環境・エネルギー面等の点で優れ ている公共交通機関であり、積極的な維持・活性化を図る必要があるにも関わら ず、1997年の鉄道事業法改正により、鉄道事業の休廃止が許可から届出に規制緩和 されて以来、不採算の地方鉄道が次々と廃止され、地域住民の生活の足が奪われる 深刻な事態となっている。この原因は、道路整備が道路特定財源や地方交付税等の 公的資金により行われるのに対し、鉄道の整備・存続・改良は鉄道事業者の経営努 力に任されているため、地方のまちづくりが道路整備と連携して進められ、その結 果としてモータリゼーションが進行したことにある。これは、並行する鉄軌道への 「負の影響」である。
 経済的にも、道路よりも鉄軌道の方が一般的には安価であり、効率性を評価する には鉄軌道との比較が不可欠である。財源・制度の問題だけで、鉄軌道より不経済 な道路整備に資金が流れている現状は是正する必要がある。
 また地域高規格道路や**道路(バイパス)といった自動車専用道路等の新規に 建設された道路は、往々にして地方都市都心部の空洞化や公共交通機関の衰微に拍 車をかけている。これは、従来自動車交通の円滑化のみに多大な政策目標を持たせ ていた結果であり、縦割りかつ分野別で排他的でもあった従来型の計画策定となっ ていたことへの反省が今こそ必要である。今後はむしろ、既存の各交通機関の長所 を生かすべく横断的に連携できるような制度・政策に改めるべきであり、とりわけ 街路事業(特殊街路認定)を鉄軌道線路敷にも拡充していくことを強く要望する。
 地方整備局や各工事事務所レベルにおいても、今後事業量の減少が予想されるば かりでなく、総合的な交通対策が迫られているわけであり、鉄軌道を含めてより公 共交通機関を中心課題として取り組んでいくべきである。そのためには、省庁再編 の効果を存分に発揮するためにも地方整備局と地方運輸局を統合再編して人事交流 を図り、予算を効果的に執行出来うる環境を整備すべく実施していくべきである。

<指標番号>T-4,5
<対象道路種別>一般国道(二次改築)/一般国道(一次改築)/都道府県道/市 町村道/街路
<原文>
□現道等に、当該路線の整備により利便性の向上が期待できるバス路線が存在する
□新たに新幹線駅もしくは特急停車駅に60分以内でアクセス可能となる市区町村 が存在する
<意見>
 新幹線や特急よりも、地方鉄道の存続の方が喫緊の課題である。「地方鉄道駅へ のアクセスを向上する」、具体的には鉄道駅から周辺へのバス路線の充実化、パー ク&ライド・サイクル&ライドの推進による鉄道利用の利便性向上に寄与すること を評価指標として頂きたい。
<理由>
 近鉄北勢線やJR可部線など、百万都市近郊の鉄道まで廃止が届出される事態と なっているが、沿線では宅地開発が進み、人口が増加、周辺の道路で慢性渋滞が起 こっているのが現状である。このような場所では、バス&ライド、パーク&ライ ド、サイクル&ライド等、鉄道と道路系の交通機関を連携することによって、鉄道 利用者の増加と道路の渋滞解消につながる大きなメリットがある。
 また、既存の鉄軌道の駅等の結節施設が貧弱で公共交通機関が衰退しているケー スが全国的に散見される。このような場合、特殊街路認定を拡充することで、鉄軌 道駅の道路との結節のための駅の改築・移動・再整備等を街路事業として地方整備 局や各工事事務所レベルで実施できるように制度を改変すべきである。

<指標番号>T-9
<対象道路種別>すべて
<原文>
□三大都市圏の環状道路を形成する
□広域道路整備基本計画に位置づけのある環状道路を形成する
<意見>
 「環状道路を形成する」ことは「客観的評価指標」とは言えないため、指標から の削除を求める。
<理由>
 客観的評価指標とは、交通利便性の向上、事業の条件・時期の適切性、代替ルー トの確保、環境の改善、上位計画への位置づけなど、事業実施が何らかの社会的メ リットにつながることを評価できるものでなければならない。対して「環状道路を 形成する」というだけではメリットがあるとは言えず、この指標で優先的に道路を 整備するのは客観性に欠けるものである。
 道路交通の円滑化によってかえって自動車交通需要の増大を招き、その結果都心 部を衰退させるだけではなく、過度なモータリゼーションを助長し公共交通機関を 衰退させてきたことが、全国的にとりわけ地方において顕在化したからである。こ のためには、環状方向の交通の必要性自体をまず鉄軌道も含めて総合的に検討・計 画策定することが必要であり、鉄軌道を始めとする道路以外の交通手段との比較評 価も必要である。

<指標番号>T-16
<対象道路種別>都市高速道路/一般国道(二次改築)/一般国道(一次改築)/ 都道府県道/市町村道/街路
<原文>
□地域高規格道路の位置づけあり
<意見>
 「地域高規格道路の位置づけがある」ことは「客観的評価指標」とは言えないた め、指標からの削除を求める。
<理由>
 客観的評価指標とは、交通利便性の向上、事業の条件・時期の適切性、代替ルー トの確保、環境の改善、上位計画への位置づけなど、事業実施が何らかの社会的メ リットにつながることを評価できるものでなければならない。対して「地域高規格 道路の位置づけがある」というだけではメリットがあるとは言えず、この指標で優 先的に道路を整備するのは客観性に欠けるものである。そればかりでなく、地域高 規格道路については、道路種別が複数にわたる等明確ではなく、その概念自体が紛 らわしくきわめてわかりにくいものであり、一般国民に誤解を与えかねない道路 (事業)種別となっている。
 また、四全総時代に形成された高規格道路(今回「一般国道(高規格B)」と表 現されている種別)も実質的機能は高速自動車国道と何ら変わりなく、地域高規格 道路と同様、一般国民に誤解を与えかねない。「高速自動車国道に並行する一般国 道の自動車専用道路」として高速道路に先行して直轄で整備されている箇所が全国 的に虫食い状に散在しており、高速自動車国道に編入による道路種別の事後変更等 は、費用便益効果の算定を困難にするなど悪影響を与えるものと言える。このた め、今後は膨大な道路整備を前提とするような五カ年計画を根拠とする従来型道路 ・街路整備は止めるべきであり、鉄軌道も含めてできるだけ既存の交通インフラを 積極的に活用するような道路・街路整備に改め、モータリゼーションよりも公共交 通機関を支援するように国の政策自体を変更すべきである。

<指標番号>T-10,22
<対象道路種別>一般国道(二次改築)/一般国道(一次改築)/都道府県道/市町村道/街路
<原文>
□市街地再開発、区画整理等の沿道まちづくりとの連携あり
□鉄道や河川等により一体的発展が阻害されている地区を解消する
<意見>
 道路財源で都市の一体化鉄道を同時に整備する「連続立体交差事業」に関して、 「連続立体交差事業が鉄道の近代化更新を進めることが期待される」ことを評価指 標として頂きたい。
<理由>
 連続立体交差事業の財源は道路特定財源で、実態としては今日の鉄道整備の自主 財源の乏しい中、連立工事が事実上の鉄道基盤整備支援制度になっている。鉄道整 備を道路・都市側の理論で進めるという「ねじれ」現象が、小田急線の高架と地下 を無理やり繋げる計画、さらには旭川−北旭川信号所間の機能補償を名目とする中 途半端な複線電化工事などは、回送列車の運行しか想定されていない等鉄道施設の 改善とは遠い結果を各所で招いている。連続立体交差事業が「鉄道側(その利用者 も含む)」から見ても無駄な投資にならないよう、十分に評価する必要がある。

<指標番号>U-1
<対象道路種別>街路
<原文>
□自転車交通量が500台/日以上又は自動車交通量が1,000台/12h以上又は歩行者交 通量が500人/日以上の区間において、自転車利用空間を整備することにより、当該 区間の歩行者・自転車の通行の快適・安全性の向上が期待できる
<意見>
 自転車利用空間の整備と同様に、「街路事業により軌道系交通機関の整備空間 (軌道敷用地)が確保できる」ことを評価指標として頂きたい。
<理由>
 街路事業(特殊街路認定)には、軌道、都市モノレール及び新交通システムと いった公共交通機関が含まれている。このうち、軌道は既存の鉄道との乗り入れが 可能で、ネットワーク化が容易に図れるのに対し、都市モノレール及び新交通シス テムは、既存のネットワークから独立した別体系の交通機関の整備となる。また、 消費エネルギーや環境面からも、(ゴムタイヤよりも)鉄レール・鉄車輪システム の方が有利である。
 以上のような背景から、路面電車(LRT)が見直されているが、導入するには専用 の軌道敷用地を道路内に確保するか、トランジットモール化が必要となる。前者に ついては道路計画に軌道敷用地を含めることが障壁となっており、後者については 警察の許可や地元商店街の反発等が障壁となっている。
 できうれば、街路事業の中でも特に特殊街路の認定を「交通インフラ支援事業」 として再編拡大し、軌道系交通機関の用地・軌道敷支援策として道路特定財源を活 用できるよう、軌道系交通機関の導入の点からも評価する必要がある。
 国土交通省への統合効果を一般国民に具体的にわかりやすく提示していくために も、街路事業を軌道系交通機関に拡充していくことはきわめて効果的な政策と考え られる。新世紀を迎え新たな国土交通省の推進する新政策として、こうした取り組 みを推し進めることこそが、新たな時代における国土交通省の国民の強い付託に答 えるものと考えて疑わないものである。

以上


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