2005年6月19日

 

鉄道の安全への提案 ―福知山線事故から―

あらたな公共交通のしくみづくりを

 

特定非営利活動法人 全国鉄道利用者会議

 

今回、福知山線におきまして脱線事故が発生し多くの乗客が犠牲になられたこと、また多くの乗客が負傷されたことを非常に残念に思います。犠牲になられた方々に対して、深く哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げますと同時に、負傷された方々には一日も早いご回復をお祈り申し上げます。
事故を起こしたJR西日本が、人の命を預かる企業として重大な問題を抱えていたこと、大きな過失があったことは疑いようがありません。すなわち、鉄道事業の技術継承、信楽高原鉄道事故後の明確な安全対策の実施、事故が起こった場合に被害を最小限に抑える対策と事故後の対処について問題があったと言わざるをえません。今回の事故によって、鉄道全体に対する社会的な信頼を揺るがしてしまったことについても、JR西日本は大いに反省するべきであり、今後、JR西日本及び全国のすべての鉄道会社に、鉄道への信頼回復の努力を求めたいと思います。
しかし、現状の鉄道事業の性質上、「公共性」と「企業性」の二律背反したものを求めなければならない宿命の中、JR西日本は、首都圏の路線網を持つJR東日本、東海道新幹線を持つJR東海と違い、絶対的優位な経営資源を持たない市場状況の下、しかも多くのローカル線を抱え、明らかに本州JR三社の中で一番厳しい状況にありました。その結果必然的に、稼げる可能性のある京阪神都市圏で、並行する私鉄との乗客獲得競争に圧倒的優位に立つ必要があったのであり、それは民営であれば当然求められていたと言えます。JR西日本を責めるだけでは事故の再発防止には寄与しません。事故の原因をJR西日本の経営姿勢だけに求めるのではなく、鉄道システム全体としての事故防止に寄与する方向性を模索する必要があります。
今回の事故を含め、多発する社会の重大な問題は社会システムにおける欠陥の一部が露呈したのにすぎないということをまず疑わなければなりません。社会的影響が大きく、広く利用される鉄道のようなシステムでは、社会全体の鉄道を支える構造そのものにも目を向けなければならないと思います。私たちは、鉄道を利用する立場の視点で、安全性、利便性向上を研究、提案する団体として、この事故を教訓にして新たな公共交通のしくみを国家全体で考えることを提案致します。

 

輸送分担率に見合った公的負担が必要

これまで、日本の大都市圏で、鉄道が採算を取りつつ一定の旅客輸送の輸送分担率を獲得してきたことは、地球環境保全とコンパクトなまちづくりによる社会的コストの圧縮において、大きな成果をもたらしました。ただ、国の財源配分に国民の理解が得られなかったため、税金を鉄道に投入することができず、自動車との不利な競争条件のもとで、渋滞対策等の役割を果たすために、乗客のサービス(利便性)と安全性の確保に厳しい綱渡りを強いられてきました。
旅客輸送における輸送分担率(人キロベース)は、自動車64.2%、鉄道29.1%(2002年度)です。一方公的部門による鉄道への投資規模は、整備新幹線、地下鉄を含めて1500億円程度ですが、2004年度の道路投資額は道路特定財源が5.7兆円、一般財源3.5兆円と、総額11兆円にも及びます。その上、道路整備に充てられる地方債の償還等に地方交付税として一般財源から多くの支出があり、道路全体で年間15兆円もの国民の税金が投入されています。また、これ以外に高速道路の建設費は借入金でまかなわれ、その返済の多くの割合が国民の税金によってなされています。つまり、日本の鉄道は今、お金の面から不当に冷遇されているといえます。「皆が自動車を使い鉄道に税金投入をする合意がない」と言われながら、実は国民の合意たる輸送分担率は税の使途に反映されていません。

 

競争政策下の公平な基盤の整備が必要

さらに、これまで、鉄道事業者は公共性と企業性の両立を強いられてきました。また、競争政策の下、並行する鉄道会社だけではなく、自動車との競争をも強いられながら、実は自動車との公平な競争の土台さえ整えられていません。JRも含めて、民間の鉄道会社が金融面からは一般の企業と同じ扱いを受けながら、なおかつ公共性を維持していることも大変なことです。鉄道会社の多くは、近年の国の金融政策によって銀行が自己資本比率規制・信用リスク規制のため不良債権処理を加速させ、従来与信していた部分にまで融資金回収の圧力をかけたことから不採算路線の廃止か安全対策の先送りをせざるをえなくなっています。今回の事故も現在相次いでいる赤字ローカル線廃止も、根源は同じです。この際、公共性と企業性の両立という問題において、行政の役割・民間の役割を明確にする必要があると思います。少なくとも、社会資本として自動車の走行する道路と鉄道インフラの公的負担の条件を同一にする必要があります。
また、完全民営化されたJR各社が現行の制度下のまま大都市圏での安全対策を強化すれば、JR各社の赤字ローカル線の廃止を加速させかねません。また一律に安全基準を義務付けることによって、経営基盤の弱い鉄道会社の路線を廃止に追い込むことが懸念されます。最近の事例を見ても、自動車交通が普及した今日でも、赤字線であっても鉄道の廃止された地域では生活や経済に大きな影響がでています。適切な税金の投入をしなければ、日本の公共交通は崩壊し、結果として国民が不便を強いられることになります。

 

鉄道の価値の再認識を

これまで日本の鉄道は、海外の鉄道に比べても、輸送人キロメートルあたりの人命リスクが2桁小さく、今回の事故にもかかわらず、旧型ATSのついた鉄道ですら自家用車よりはるかに安全という数字が出ています。誤った認識による鉄道忌避が原因で自家用車の輸送分担が増えれば、結果としてけた違いの事故死亡者の増加を招くことになります。安全施設の整備充実は自家用車との公正な競争の確保と同時になされるべきです。それが全体として交通事故死者数を減らすことにつながります。鉄道の価値がもっと社会的に認識される必要があります。

 

合理的な社会システムとは

鉄道に対する、輸送分担率に見合った公的負担がないことに合理性はありません。本来ならば、輸送分担率に見合う割合の公的負担を鉄道の安全対策、路線の維持・再生・活性化、路線の再編整備、利便性向上等に回すべきです。たとえ輸送分担率に見合った鉄道への投資が無理でも、道路予算の1%でも鉄道に回せば格段の安全対策等の本来必要な投資ができます。そしてそれには先に示した数字のとおり十分な合理性があります。国は、この事故を契機に鉄道インフラの改善への指導だけではなく国家予算による十分な公的負担を以って鉄道のインフラ整備を強化するべきでしょう。それが本来の合理的な社会システムといえます。私たちは、今回の事故が教訓となり、鉄道の安全運行を国家として支える制度改革がなされることを待ち望んでおります。間違っても、今回の事故が、鉄道の衰退を促進させ、かえって交通における事故の犠牲者を大幅に増大させることにつながってはならない。福知山線の運行再開にあたってそのことを再確認し、広く皆様にご提案申し上げたいと思います。

以 上


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