身近な神
  ついこの間まで、私たちのまわりにはたくさんの神様がいました。
 夜が明るくなり、テレビが暮らしに入ってきたため、いつの間にか神様と縁遠くなっています。
  日本は四季の自然に恵まれ、その恩恵を受けてきたため、特別自然を大切にし、
 畏敬もしてきました。突然吹き出す風や荒れる山、わき出す水、木々にまで神を感じ、
 恐れる謙虚さをもっていました。
  人の心がすさみ、犯罪が横行し社会のモラルが低下している今、こうした神々に
 思いを馳せるのもあながち無駄なことではないでしょうか…?

 「山の神」
山の神はやきもち焼きでコワイものとされ、
奥さんをヤマノカミと言うのはここから来ています。
樹木や獣を支配する神で、山村では厚く信仰されています。
しかし農村での山の神は、春には田の神になって下りてくる
稲作神です。秋にはお祭りをして山にお返しします。
神道の山の神は大山祇神(おおやまづみのかみ)などを
祭っています。志摩半島や九州では、
山の神を「漁の神」として祭るところもあるそうです。
 「風神」
突如として吹き荒れる風にも、昔の人は神を感じました。
風袋を背負った風神や、奈良・竜田大社に祭られている
志那津彦命(しなつひこのみこと)、
志那津比売命(しなつひめのみこと)は有名です。
あの『古事記』『日本書紀』の時代から風神の記載があります。
悪い風を鎮めて豊作を祈る風神祭や風祭りはあちこちで行われ、
竹ざおの先に鎌を縛ってとりつけ、風神の風袋を
切り裂いてしまおうとする「風切り鎌」の行事もあります。

 「田の神」
田んぼの守り神。春、山から降りてきて稲の成長を見守り、
収穫が終わると山に帰るとされています。
農作業を始めるとき行う水口祭りや田植え始めのワサウエ・
サラビキ、本田植え後のシロミテ・サナブリ、
刈りあげ祭りなどはみな田の神のお祭り。
この神は「サ」で表され、サオリ、サノボリ、サナエ、サツキ、サミダレ、サオトメ、サクラなどは
神にちなんだ名前だそうです。

 「庚申」(こうしん)
村の辻や道ばたに庚申塔が建っています。
庚申待ちの供養塔です。庚申は暦の十干十二支の一つの
「庚申」(かのえさる)の日。この日はみんなでお堂に
集まって、食べたり飲んだりしながら夜も眠らずに過ごし、
健康長寿を願います。中国道教の三尸(さんし)の虫の
思想がもとになっています。
娯楽のない時代の楽しみの一つだったようです。

 「案山子(かかし)神」
案山子も神です。今はいろいろの形のものがありますが、
やはり案山子といえば人の形をしたものを思い浮かべます。
もともと案山子には、田に注連(しめ)と神の依代(よりしろ)
の人形やお札を立てるもの、また音や色、形で鳥や獣を
驚かせるもの、最後に悪臭で鳥獣を追い払うものがあった
そうです。このうち最後のものは「焼嗅(やいか)がし」の
行事がもとになっています。「嗅がし」が「かかし」に転訛
最初の人形とくっついて現在の形になったそうです。

 「馬頭観音」
農業がまだ機械化されていなかった頃、水田の耕作や荷物
の運搬など力仕事は馬に頼っていました。
農家は馬を大切にして住まいと一緒に厩(うまや)を造り、
寝起きをともにして家族同様の生活をしました。
今でも「馬力」は力の単位になっています。村はずれにある
馬頭観音は、このような大事な馬の供養塔。
変化(へんげ)観音の一つです。
能満寺の参道にも馬頭観音の小さな供養塔があります。

 「道祖神」(どうそじん)
道祖神はもともと村の外からくる疫病や悪霊を村境で
さえぎり、村を守ってくれる神です。だから別名を
塞(さい)の神とかさえ(障・さい)の神と呼んでいます。
また「さい」は幸に通じ幸いをもたらすということから、
縁結びの神、旅人を守る神にもなっています。
1月14日、15日ころには道祖神祭りも行われます。
道祖神の形には丸石や文字を彫ったもの、
双神像などがあります。

 「貧乏神」
みんなに嫌われる貧乏神も気の毒です。
押入れにいる小さく痩せた爺様とか、豆粒のような小男や、
杖をついた汚い爺さんの姿で表されています。怠け者の
家を好み、住みつくと体がだんだん大きくなっていきます。
しかし、大事にもてなすと福運をもたらす神に転換すると
いわれています。つまり貧乏神と福の神は一つの神の
両側面だとも考えられています。もっと大事にしましょう。

 「便所神」
正月やお盆にトイレに青しばをあげたり、年末に御幣
(ごへい)を供えたりするところがあります。隅に小さな
神棚を作って女の人形を祭るところもありますが、
普通はご神体がなく棚だけの方が多いようです。便所神は
厠(かわや)神、セッチン神、カンジョ神などとも呼ばれ、
あまり飾り立てる神ではないようです。便所神は
お産の神になっています。トイレをいつも綺麗にしておけば
美しい子が生まれるなどと言い伝えられています。

 「井戸神」
各地に弘法大師の井戸とか姥(うば)が井、阿弥陀の井など
の伝説が残っています。人の生活になくてはならない水を
くみ出す井戸は、大昔から神聖視されてきました。かつては
井戸にいつも塩を供え、簡単な神棚も作ってありました。
子供のお七夜に井戸神にお参りするところや、正月3日に
つるべの縄をない、7月には幣束(へいそく)を立てて
井戸の水替えをする地方もあるそうです。能満寺でも、
井戸の跡地に年末幣束を作りお飾りもあげます。

 

イラストは kei さんです。

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住職 高橋 隆叡